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 碧く、広大な草原が目の前に広がる。
 その草々の動き、そしてその声は恰も、滄海の波のようだと海を知る者が昔、語っていた。
 さわさわと草々を鳴かせた清風が、蒼い外套を羽織った男の頬を撫ぜて行く。
 男は、青い草の爽やかな香りを胸一杯に吸い込みながら、海を知る者の言葉を思い出す。

――この音、この光景。
  揺蕩う滄海の如し。
  冬を運ぶ風、
  我が心に望郷を呼び起こさん。

 海が如何様な物なのか、男は知らない。
 だが、海を知る者の言葉は、瞳を閉じると青い海原を思い起こさせた。



「孟鐫(モウセン)殿、如何なされた」

 瞳を閉じ、傾いた太陽の光を浴びながら溜息を吐いた男に、背後から栗毛馬に跨がった、壮年の男が声をかけた。
 孟鐫と呼ばれた男は徐に黒い瞳を開き、声の主を振り返る。

「これは謄蛍(トウケイ)殿……。少し、考え事をしておりました」

 孟鐫の隣に轡を並べた壮年の男は、にっこりと目尻に皺を寄せて微笑んだ。

「考え事かね。若い頃には、大いに悩んだ方がよい……ただ、戦場で悩んではいけないよ」

 低く、優しい声で謄蛍は言う。
 孟鐫は深々と頭を垂れ、苦笑した。

 眼前には草原と、その先には敵影がある……そう。ここは戦場なのだ。


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あきゅろす。
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