1 ピー……ピー……。 耳障りな、甲高い電子音が、暗い部屋の中に鳴り響く。 ピー……ピー……。 こんな時間に目覚まし時計を設定した覚えはないが、と寝台に突っ伏していた男、エーベルト・ヴォルフは、いまだ酒の抜け切らぬ頭を振る。 ピー……ピー…… 寝台を下り、照明を灯す。 すると一瞬明かりに目が眩み、ヴォルフは黒く濃い眉を顰めた。 辺りを見回すと、電子音の正体は緊急通信用機器の着信音であったようだ。 骨董品調のサイドテーブルを戦場とし、騒音の主は唸り声を上げている。 ピー……ピー……。 紛らわしい。 隣に置いてある目覚まし時計のそれと、全くおなじ音ではないかと、頭を掻きながらヴォルフは通信に応じる。 「お休みのところ申しわけありません。ゾディアーク関連のことで動きがあったもので……」 受話器の向こう側から、聞き慣れた男の声が響く。 「構わぬよ……報告はそちらで受ける」 ヴォルフは低く、よく透る声で応対しながら髪に櫛を入れ、撫で付ける。 再来年で五十になるが、その髪はまだ白い物が見受けられない。 「了解致しました」 ぷつりと回線が切れたことを確認し、溜息を一つ漏らした後、時計を見遣れば午前二時半。 眠りについて一時間と経ってていないと愚痴を零すこともなく、ヴォルフは紺色の軍服の上着を素早く羽織り、部屋をあとにした。 [次#] |