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狐嵐帝記
行き倒れ・・?


春が緩やかに夏へと変貌する、水無月。
新緑が陽光に歓喜の声を上げる山中に、少年はいた。

まだ十四、五であろう幼さで、栗鼠を思わせる大きな目の、可愛らしい顔立ちをしている。
着ている着物は、緑色に染められた胡服で、動きやすい様作られている。

木の上にいる少年の回りには、小さな鳥が群がる様に集まっている。
餌につられた訳ではなく、自ずと集まってくる様だ。


突然、鳥が一斉に飛び立った。そして、木の下から声が掛けられた。

「朴都、こんなところにいたのか?」

少年――朴都と呼ばれた――は、声を聞いてぱっと起き上がった。そして、危なげなく下を覗き込む。

その先には、山奥には相応しくない様な、美形がいた。
サラサラの流れる様な長い金髪に、全てが完璧な顔の造作。
纏う胡服は藍色で、すっきりと細い体にぴったりである。

見上げている為か、彼の目は眩しげに細められていて、優しい色を宿している。

「お兄、どうかした?」


朴都が降りると、美形は若干眉を潜めた。
そして、朴都の服についた葉っぱを落としながら、言った。


「道にね、行き倒れがいたんだよ。一応拾って来たけど、ちょっと様子を見ててほしくて」
「行き倒れ?こんな山奥に?」


話しながら、二人は歩きだす。

朴都のいう様に、此処は凄まじく人里離れた山奥だ。
1番近い民家が、山一つ向こうの山小屋(狩りの時のみ使用)なのだ。
山賊も現れない僻地に、行き倒れなんて珍しい。


「うん。悪い人ではないみたいだから、大丈夫だよ。私は山菜を取りに行くからね」
「うん、わかった!」

よしよし、と朴都の頭を撫で、彼は家の前で別れた。


残された朴都が、家の扉を開く。せいぜい二間の簡素な山小屋だから、玄関に立てば室内が見渡せる。


囲炉裏の直ぐ横に、人が座っていた。
儚げな印象のある、青年だ。若干、朴都より年上だろう。
白に近い髪の色に、薄い茶色の瞳。着ている旅装は汚れているが、彼の儚さに色を落とす事はない。


「大丈夫か?」


朴都が声を掛けると、彼は朴都の方を向いて。
みるみる内に、青年の両目に涙が溢れてくる。

「ど、どうかした?どっか痛いとか」

慌てて朴都が近寄ったら、青年は朴都を強く引き寄せ。
―――抱きしめた。

何が何だか分からず、されるがままの朴都の耳元で、青年が呟いた。


「やっと、見つけた・・!」



引き絞る様な声音は、まるで女性の様に可憐だった。





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あきゅろす。
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