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Glare




「…はぁ…」



…そう、そんな出来事が有ったのが一週間前。

回想から戻った幸村は、その時の事を思い出し、深く深く、溜め息をついた。

あの、元親の笑みの意味。

この一週間で、幸村はその意味を痛い程に実感していた。



「Ah?どうした、幸村?」



今も、また。

幸村の言葉に、心配そうに自分を覗き込んで来る、同じく図書委員になった政宗。



「い、え…っ!?」



直ぐに何でもありません、と続けようとした幸村は、政宗と己の余りの近さに驚き、言葉を失った。

…気のせいかもしれない。

きっと政宗は無意識なのだろう。

しかし、幸村にとってその距離は、同性同士がそういうやりとりをするには余りにも近過ぎる距離で。

政宗の心配そうな顔が、さらさらとした髪が、呼吸が、声が、瞳が、蒼が。

目の前に在り、こんなにも…近い。

政宗の瞳に、焦る己が映っているのが分かる程に。

少し動けば、己の唇が、政宗の唇に触れてしまいそうな程に。

とても、

───近くに。



「ま、まままままま政宗殿!!そそそ某は大丈夫ですので、は、早く終わらせて帰りましょう!」



その距離に幸村は顔を真っ赤にし、更にぶんぶんと両手を振り、パニックになりながらものすごい早さで政宗から離れ、近くの本を掴んで本棚に走りよる。



「…That's right.」



本棚の方を向いて仕事をしていた幸村は、暫くして背後で呟かれた声に独(ひと)り、安堵した。

二人は今、図書室で二人っきりで、委員の仕事で本の整理をしている。

この仕事はどうやら当番制らしく、そして二人が今日のその当番なのだ。

幸村にしてみれば、同じ委員になっただけでも危ない!というのに、二人っきりで仕事をするという状況は、些(いささ)か苦しいものである。

その為か、政宗と幸村の間には会話も何も一切無く、ただ静かな沈黙だけが図書室を包んでいた。



「……………」

「……………」



ただ、黙々と、機械的に幸村は必死に仕事をする腕を早める。

その理由は、勿論早くこの状況から逃げ出したいから。



(嗚呼…これが一年間続くのか…)



幸村はそう考え、そうしてまた深い溜め息をついた。

─────そんな幸村の背中を、政宗が泣きそうな顔で見ていたのは、また別の話。



「…幸村。こっち終わったぜ?」



暫く作業した後、静かに、政宗が幸村に告げる。



「そ、某も終わりました!」



幸村は必死に笑顔を作り、政宗を振り返りながら声をかける。



「…で、では政宗殿、某は失礼いたす!」



…訂正しよう。声をかける、と言うよりは一方的に幸村は政宗に向かってそう叫び、そして直ぐに帰れるようにと持ってきた鞄を掴みその場を走り去る。






























「ま、待て幸村っ!」



──────筈だったのだが。

何故か急に政宗に腕を掴まれ、幸村の図書室からの逃亡は失敗した。



「うぉあぁっ!?政宗殿っ、な、何でござるか!?」



政宗に急に腕を掴まれ、バランスを失いおもいっきりこけそうになりつつ、幸村は腕を掴む政宗を見る。



「Ah〜…」

「?政宗殿?」



幸村の視線には、何時もの政宗らしくない、歯切れ悪くキョロキョロと視線を彷徨わせている政宗の姿が映る。



「ま、政宗殿…?そ、その、某、今日用事が有りますので…」



まぁ勿論の如(ごと)く嘘ではあるのだが、幸村は用事を盾に政宗から何とか逃れようとする。

しかし、迷うような素振りを見せながらも、政宗は決して幸村の腕を放そうとはしない。



「…ゆ、幸村、その…、なんつーか…、」

「…政宗殿…?」



最初は政宗が自分の腕を掴んでいる事に驚き、そして必死に政宗から逃げようとしていた幸村も、三分間も何時もの政宗らしからぬ政宗のその様子を見て、漸(ようや)く少しずつ疑問を感じ始める。



(政宗殿、何かあったのだろうか?まさか、俺が何かしてしまったのか…?)



「………………」



…心当たりは、嫌と言う程有った。

ゆっくりと今までの政宗に対する己の行動を思い出し、自己嫌悪しそうになる自分を抑え、腕を掴んだままの政宗の言葉を待つ。

暫くして、漸く視線を幸村に戻した政宗は、まだ幸村の腕を掴んだまま、今度は幸村から視線を逸(そ)らす事なく幸村をじっと見つめたまま、ゆっくりと言った。




















「あのな、幸村、」










「は、はい…」










「その…、な、良かったら、で良いんだが…、」










「は、はい…?」






























「             」






























「…は?」










政宗の唇から出た言葉は、

とてもとても、意外なものだった。



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