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Glare


結局、慶次と幸村は“幸せな恋”について話した後から一つも会話をせず、二人は微妙な空気のまま政宗達が待つ教室へ向かった。

教室に着いた頃には幸村も何時もの幸村に戻り、先程の暗さを微塵にも感じさせない明るさで、その変わりようは慶次が首をかしげる程だった。

そして時間は流れ、只今六限目。

幸村は、机に肘をつきながら、ぼぅ、と先程の慶次との話の事を考えていた。

“幸せな恋”。

先程、本当に嬉しそうに恋は良いよ!と叫んでいた慶次の顔が幸村の脳裏に浮かぶ。



(…“幸せな恋”、か…。俺には、どうも無縁な気がする…)



そう思い、幸村は重く息を吐き出しながら、斜め前の席───正しくは斜め前の席に座る政宗を、見た。

政宗は前の席に座る慶次と話をしていて、時折楽しそうに慶次と笑いあっている。



(…政宗、殿…)



その横顔を見て、幸村は何とも言えない微妙な気分になった。

───哀しいような、苦しいような、泣きそうになりそうな、でも嬉しいような、そんな気分。

さらさらと流れる黒髪、鋭い切れ目の長い瞳、恐ろしく整った顔立ち、低くて擦れたような甘い声。



『───Hey,真田幸村!』



(───…嗚呼、)



脳裏に浮かぶのは、今目の前にいる筈の“政宗”ではなくて。



『…相変わらずだな、真田幸村。今日も俺を楽しませてくれよ?Let's party!!』



(───…政、宗殿…)



幸村が、淡い恋心を抱き、そして好敵手として互いを高めあった、奥州覇者・独眼竜“伊達政宗”。



『Ha!アンタの───、勝ちだ。真田幸村…。楽し、かったぜ…?』



(…違、う…。この人は政宗殿、であって、あの“独眼竜”の政宗殿とは…違う、のだ…)



必死にそう自分に言い聞かせ、幸村は政宗から無理矢理視線を外し、顔を反対側に向け窓の外を見る。

その外に広がるのは───、蒼い蒼い、天。



『…じゃあ、な…真田幸村。アンタとは…、いや、何でもねぇ…。早いとこ俺の首を取って、虎のおっさんとこに行くんだな…』



(…嗚呼…。何処に視線を移しても、何時も政宗殿は…。俺の、中におられる…。あの天にさえ、政宗殿は…)



『真田幸村───…』



(政宗殿────…)




























「真田幸村ぁっ!!!」

「───…え?」



全く同じ声、そして全く同じ呼び方。

その懐かしい呼び方に幸村は驚いて、直ぐに視線を声の方向に向ける。



「あ…。政、宗殿…」




瞳に映る、政宗。

駄目な事だとは分かっていても、幸村は落胆する心を抑えられなかった。

其処に居るのはあの“独眼竜”ではないと分かってはいながらも、つい期待してしまう。

“独眼竜”の“政宗”が居る事を。

勿論今居るのは全く別人の“政宗”で。

それを認識する度に、幸村の心は落胆するのだった。



「やーっと反応しやがったな幸村ァ…」

「元親殿…?ま、政宗殿や元就殿までどうしたのですか?」

「どうしたってお前…。俺等が何回呼び掛けてもずっと外見ててお前が反応しないからだろ?」

「…貴様が余りにもおかしいのでな。我もわざわざこうして来てやったのだ」

「そ、それはすみませぬっ!!そ、某、少し考え事をしていたものですから…。それで、どうなさったのですか?」



呼び掛けにも気付かぬ程に、己は政宗殿の事に没頭していたのか。

そう心中で己に呆れつつ、そして珍しく眉を顰(しか)めている元就や元親に幸村は問う。



「あーほらアレだ、アレ」

「アレ?」



元親は呆れながら、アレ、と言いながら黒板を指差した。

其処に書かれていたのは、“委員会決め”の文字。



「委員会、でござるか?」

「あぁ。で、幸村は抽選にハズレて見事図書委員に任命されたんだよ」

「そ、そうなのでござるか…?」

「おぅ。で、まぁ拒否権は無ぇけど一応大丈夫か、だとさ」

「あ、はい。大丈夫でござる」



顔を覗き込んで来る元親に、幸村はまぁ大丈夫だろう、と返事をする。



「…まぁ、精々頑張れよ幸村」

「?はい」



何故か楽しそうに笑う元親に一度首をひねるが、基本何時も元親は笑っているので幸村は気にしないようにした。

にっこりと断言した幸村に、やはり楽しそうにニヤリと笑い、元親は告げる。



「よし、決まりだな。頑張れよ、幸村、政宗!!」















「──────は?」

























呟いた自分の声が、やけに遠く聞こえた。



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