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Glare




「あれ?おはよー幸村!」

「けっ…慶次殿!!」



認めたく無い事から逃げるようにして廊下をずんずんと進んでいた幸村は、不意に明るい声に呼び止められた。

明るい茶髪の髪を高い位置で結び、肩に猿を乗せ笑う長躯の青年───前田慶次である。



「お、お早うございます!」

「うん。ほら、夢吉も挨拶しな」

「キキッ!」

「夢吉殿も、お早うでござる」



肩に乗る愛らしい猿にもきちんと挨拶をし、幸村は慶次の隣を歩き始める。



「あ、幸村今日は日直かぁ!相変わらず真面目だねぇ〜」

「そ、そんな事はございませんぞ!某は当たり前の事をしているまでですので!」



ふと思い出したように言った慶次に、必死で首を横に振りながら幸村は言う。

そんな幸村の反応に、慶次はほんっと真面目だねぇ、とクスリと笑った。



「そこが真面目だって言うんだよ、幸村は。人生楽しまなきゃ損だよ、幸村?」

「そ、某は、人生楽しんでおりますぞ?」

「えーそうかなぁ?じゃあさ、幸村、恋はした事あるのかい?これはしなきゃ損だよ〜?」

「こ、ここここここ恋ですかっ!?そんな破廉恥な…っ!」



何処からどう話がずれたのか、話題は何時の間にやら幸村が真面目だという話から幸村の恋バナになってしまっていた。

初心(うぶ)な幸村は顔を真っ赤にし、慶次に向かって破廉恥な!!と叫ぶ。

しかしそんな事を気にする筈もなく、慶次は恋の魅力を語り始めた。



「いやいや恋は良いよ〜!恋をしてる人を見るのも、恋を叶えた人を見るのもね!」

「…そう、ですか…」

「それに、恋をするとみーんな幸せそうだし!」

「………幸せ?」



唐突に、小さく呟いた幸村。

慶次の言葉に小さく首をかしげるその姿は───何処か、何時もより様子がおかしい。

しかしその幸村の変化に気付かず、幸村の言葉に、慶次は満面の笑みで返した。



「うん、すっごく!」

「…皆…?」

「そう、皆!」



小さく俯いて、きゅ、と自身の拳を握る幸村。

元気に叫んだ慶次の皆、という言葉に、幸村はぽつり、と呟く。



「…某は…、そうは、思わないでござる…」

「え?」



其処で漸く、慶次は幸村の様子がおかしい事に気付いたらしい。

驚いた表情のまま、じっと隣を歩く幸村を見る。

破廉恥!と叫んで顔を真っ赤にしていた青年の姿は其処には無く、有るのは酷く辛そうな顔をした青年が一人。

慶次と視線を合わせようとせず、幸村は俯いたまま小さく声を出す。



「…それは確かに、幸せな恋、というのも有るのでござろう…。しかし、それは…恐らく叶う可能性のある者達だけの物だろうと、思うのです…」

「…叶う、可能性?」

「はい…。絶対に、叶う筈の無い恋をしていれば…、恐らく、幸せな恋、にはなれないと思うのです。唯、苦しくて、哀しくて…。唯、あの人が恋しくて、あの人と話したくて、あの人に触れたくて…。けれど、それは叶う筈の無い恋ですから…」

「…幸村…?」

「…手を伸ばしたくても、伸ばせない。声をかけたくても、かけられない。触れたくても、触れられない…。赦されるのは、見ている事だけ、なのです」

「……………」

「そんな恋を…、幸せ、とは呼べないでしょう…?」



そう言って廊下を歩んで行く幸村。

何時もは明るく、元気な幸村。

しかし今は普段の幸村が想像出来ない程に暗く、そして哀しげだ。

そんな幸村に、慶次はどう声をかけて良いのか分からず、唯、じっと幸村を見つめる事しか出来なかった。



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