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Glare









紅は、嫌いだ。








突然だが、俺には前世の記憶というものが存在する。



他の者は、元来持っていない物らしい。



その事を気にした頃もあったが、もう十六も生きていると今更そんな事は気にならない。



勿論、俺が前世の記憶を持っている事を知る者はいない。



俺が誰にも言っていないからだ。



本来前世の記憶というものは排除され、人は何も知らずに生まれてくる。



前世での罪や縁を忘れ断ち切る為に。



何処ぞの怪しい宗教団体の言葉を信じるなら、神は全ての万人をお救いになる、何故なら現世の罪は来世で救われ、来世は生まれ変われるからだ、とは多分そういう事なのだろう。



…ならば、前世の記憶の有る俺は何なのか。



罪からは、所詮逃げられないというのだろうか。



俺は、赦されないというのだろうか。



…まぁそんな事をぐだぐだと考えても分かる筈もない。



唯、俺が分かるのは。



俺は紅が嫌いだという事。



そして。



俺は、よっぽど神というモノに嫌われているのだろう、という事ぐらいだ。





**********



「おーっす幸村ー」

「あー、旦那おはよー」

「おはようでござる、元親殿、佐助。…おはようございます、元就殿」

「…あぁ」



声をかけてきた銀髪の青年と、オレンジがかった髪を持つ青年、そして不機嫌な顔をした青年に、幸村はにっこりと笑って挨拶をした。

此処は幸村の通う高校、私立婆裟羅学園の2‐Aの教室である。

座席が近い事も有り、彼ら───幸村、佐助、元親、元就は仲が良い。

無論、幸村は座席が近い事だけで彼らと仲が良い訳では無いのだが。

自分の席に荷物を置き、幸村は席に座る。



「旦那ー今日の英語の課題やってきたー?」

「む?英語の…、…やってない…」

「そんな事だろうと思った。はい、課題」

「むぅ、かたじけない!」



───何処にでも有るような、珍しくも無い光景。

珍しくも無い、普通の高校生活。

けれど、幸村にとっては、地獄のような、時間。



「にしても、慶次と政宗はおせぇなぁ…」



政宗。

その名前を聞いた瞬間に、幸村の肩は小さく震えた。

そんな事に気付く様子も無く、ぺらぺらと元親と佐助は話し始める。



「慶次も政宗もお説教されてるんじゃない?まつさんと小十郎さんに♪」

「有り得るよな〜。慶次と政宗だし」

「だよねぇ…。慶次と政宗も大変だよ」



あはは、と笑いあう元親と佐助の会話を打ち切るように、幸村は佐助に勢いよく課題を返す。



「さ、佐助っ!課題、終わったぞ!」

「え?もう?早くない?」

「と、途中までやってあったのだ!助かったぞ、佐助!」

「へー…どういたしまして!」



途中までやってあったとはいえ、早すぎやしないかと首をかしげつつ、佐助はノートを机の中にしまう。



「あ、そういえばさー、2‐Bの…なんつったっけ、元親に告白してきた子。あの子どうなったの?」

「あ?あー、アイツなぁ…」



…良かった。

上手く話題がすりかわった事に、幸村は内心ほっと安堵する。



「あー…。そりゃ、御愁傷様…」

「ホントだぜ…。おい佐助、元就、誰か良い女紹介しろよ…」

「……………知るか」

「元親に回すほど恵まれてないもん、俺様〜」



三人の会話に耳を傾け、幸村は小さく溜め息をつく。

そっと、幸村は目を閉じてみる。

耳に流れ込んでくる、三人の声。

その声で、ふと脳裏に浮かぶのは、目の前に居る三人の姿─────では無くて。

今目の前に居る三人とそっくりな、けれど別人の姿。



『だーんなっ!何やってんの?…ってまた団子!?太るよ!?』



『おぅ、幸村!今日は鮪持って来てやったぜ』



『真田幸村、か…。相も変わらず暑苦しいな貴様は…』



橙の髪を持ち、迷彩の服を着た、いつも傍に居てくれた、世話焼きな忍の青年。



銀の髪を持ち、左目を眼帯で覆い、魚を土産に度々現れた“鬼”の異名を持つ青年。



さらさらした茶髪を持ち冷めた目で此方を見て、何故か太陽に向かって叫んでいた青年。



それは前世での三人と、前世の“幸村”との記憶。



「───と、ちょっと聞いてるの旦那っ!?」

「え?…あ、あぁ、悪い」

「全く!ちゃんと人の話聞いてよね旦那!」



そこに居るのは確かに別の存在の筈だ。

何故なら、彼らには、前世の記憶など無いのだから。

分かっている。

頭では、分かっているのだ。

その人達が、別人な事位。

その人達は、前世とは違う人生を歩んでいる事位。

その人達と、前世のその人達とを重ねてはいけない事位。

けれど。

けれど、重ねてしまう。

嫌でも、重なってしまう。

そして、思うのだ。

俺は、よっぽど神というモノに嫌われているのだろう、と。



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