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Glare




「……………」

「……………」



さて、その十分後。幸村と政宗は、会話も無く黙りこくったまま、二人並んで道を歩いていた。
























“途中まで一緒に帰らねぇか?”
























図書室で、政宗は、幸村にそう言った。

珍しく言葉に詰まっている政宗が何を言うのかとドキドキしていた幸村は予想外の誘いに驚きつつも、顔を真っ赤にしながらそれを承諾したのだ。

…が。

図書室の時と同じく、二人の間では会話が殆(ほとん)ど続かなかった。



(…ど、どどどどどどうすれば良いのだろうか…!?)



そんな余りにも重苦しい沈黙と緊張に、幸村は心の中、解決策を探す。



(と、取り敢えず話をしなければ…!)



取り敢えずこの重苦しい沈黙をどうにかしようと、幸村は出来るだけ政宗を直視しないように視線を逸らしつつ、明るい声で政宗を呼ぶ。



「ま、政宗殿っ!」

「な、何だ?幸村」

「そ、その…」



しかし、いざ話をしようと思うと、幸村は言葉に詰まってしまった。



(ななな何をしているのだ俺は!は、話をしなければ!政宗殿が困るではないか…!)



「そ、その…、」

「?」



(嗚呼、政宗殿が不思議そうな顔で見ておられる…!)



何か、何か話を!と焦れば焦る程、政宗の視線に晒(さら)され、幸村の頭の中は真っ白になっていく。



「そ、その…、ま、政宗殿は本はお好きですかっ!?」

「Ah…?Books、か…?嫌いじゃねぇが…、好きでも無いな…」

「そっ、そうですか…」

「……………」

「……………」



何故本なのか。それは幸村にも定かでは無い。

しかし、やっと話題を見つけたと一瞬安心するも、再度訪れた沈黙に再度幸村は焦る。



(…き、気まずい…!)



若干泣きそうになりながら、上手く回らない頭で必死に話題を探す。

しかし、下手に話題を振ってはまたこの沈黙が続くだけ。

更に状況は悪くなる。



(うぅ…。こういう時は佐助や慶次殿達が羨ましい…!)




















「…幸村は?」



頭を抱える幸村の耳に、唐突に聞こえた政宗の問い。



「へ?」



必死に頭を抱えていた幸村は、一瞬何の話かとつい間抜けな声を出してしまう。

そんな幸村の様子に少し顔を顰めつつ、政宗はもう一度幸村に問いを投げ掛ける。



「いや、だから…、幸村は、好き…、か…?」

「っ…!!!」



…一瞬、その言葉が、まるで恋仲の者達がするような会話に聞こえて。

一瞬、このやり取りが、まるで恋人同士のように思えて。

そして、心なしか政宗がとても不安げな顔をしている気がして。

そんな状況に、幸村はついある妄想───恋人同士になった己と政宗の姿を想像、もとい妄想してしまい、顔を真っ赤にして叫びそうになってしまう己の口を何とか押さえつけ、しどろもどろになりながらも何とか答えを返す。



「そっ、某もあまり…!その、どちらかと言うと、某は、身体を動かす方が性に合っていますので…!」

「Ahー…、幸村って、元気そうだからな」

「そ、そうでござるか?」

「俺が思うに、家に籠もってるよりは外で走り回ってそうだからな」

「あ、強(あなが)ち間違ってはおりませぬが…」



はは、と苦笑する幸村に、政宗は間違って無いのかよ、と独特の笑い方をしながら幸村の額を小突いて見せる。

ククッと声を出して笑う政宗。



「…まぁ、幸村らしいけどな」

「そう…、ですね。某がまだとても幼い頃から、外に出る度に佐助に見付かっては“たまには家でじっとしていろ!”と怒られましたから」

「…Ah?幸村ん家と佐助ん家って、そんなに近かったか?」

「……………あ、その…たまたま遊びに来ている時に」



少し会話が続いた事が嬉しくて、政宗が自分に話し掛けている事が嘘のようで。

つい、幸村は気を抜いてしまった。



「そんなに小さい頃から佐助と一緒なのか?」

「えー、っと…確か、小学三年だったかと思いますが…」

「…そんなに昔でもないんだな」

「そう、ですな…」



へぇ、と声を出し若干首を傾げる政宗に、幸村はただ笑うしか出来なかった。

───何せ、今言った“佐助”は、今の“佐助”では無い。

小さな頃からずっと傍にいてくれた、自分より年上の忍の青年。

今、その姿を知っているのは幸村だけなのだから、意外に関係の薄い今の“佐助”との関係だと聞けば、政宗が首を傾げるのも無理は無い。

後で佐助に聞かれでもしたら、“そんな事あったっけ”で終わりである。



「─────…、」

「へ?」



…ぽつり、と呟かれた言葉は聞き取れなかった。

風も強かったし、本当に小さな声だったのだ。

しかし間抜けに幸村が聞き返すと、政宗は何も無い、と首を振る。



「…Oh…此処で別れ道だな」

「あ、はい…」

「…それじゃあ、また明日、な。See you,幸村!」

「あ、は、はいっ!」



別れ道に差し掛かり、幸村にニッと笑い手を振って直ぐに別の道に入っていく政宗。

政宗の言った聞こえなかったあの言葉を気にしつつも、その後ろ姿を目にしっかりと焼き付けてから、幸村も帰路を辿り始めたのだった。



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あきゅろす。
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