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オワリハハジマリ
饅頭

「あ、旦那!良かった…意外に早く見付かったんだね」

「あぁ、近くに居られたのでな!本当に、直ぐに見付かって良かった…」

真田幸村に発見された場所から少し…本当に少し歩いた所で、俺は目立つ橙色の髪を発見した。

ちらと俺を確認し、そして本当に良かった、と連呼する真田幸村に猿飛佐助はうんうんと頷いている。

「ま、ともかく見付かって良かったねぇ。結月ちゃん、今度は迷子にならないでね?」

「…はい。すみませんでした」

にこりと笑って顔を覗き込んで来た猿飛佐助の声に素直に頭を下げ、じゃあ、と歩き出した二人を追う。

先程俺が迷子になってしまった事が頭に残っている為か歩く速度は落とされ、真田幸村に至ってはちらちらとかなりの頻度で此方を見てくる。

少し離れれば立ち止まる二人に、何で其処までするのだろうと疑問が浮かぶ。

(別に俺がどうなろうと関係ねぇし、放って置けば良いのに)

其の方が気楽なのに、と小さく溜息をつきながらも、俺は出来るだけ二人から離れない様にして其の後の買い物を続けたのだった。

***

「さて、と。買い物は終わりかな?」

「うむ」

数時間後。

どうやら買い物が全て終わった様で、両手に何も持っていない二人がああ疲れたと会話を交わしている。

勿論俺の両手もがら空きだ。

因みに何故誰も荷物を持っていないのかと言うと、二人が店の人に注文した物を城に届けてくれ、と配達をお願いしたからである。

そんな事が出来るのなら着いてくるのは別にどちらか片方で良いんじゃないのか、と思ったが良く考えたら真田幸村が着いてくるなら真田幸村の忍である猿飛佐助は来ないといけない訳だし、仕方ないのかもしれないと思った。

…猿飛佐助だけが来たら良かったんじゃないか、と云う事は考えない様にしておいた。
多分あれだ、四六時中真田幸村を見てないと駄目なんだ、多分。

「…あれ、帰らないんですか?」

疲れた疲れたと連呼しつつ、今迄進んで来た方向と真逆に進み始めた二人に、少し眉を潜めながら問い掛ける。

…買い物は終わったんじゃなかったのか。

「うん、買い物は終わったんだけど…後は、旦那の用事を、ね」

「真田様の用事…?」

「ま、付いてくれば解るよ」

にっこりと笑った猿飛佐助にはぁ、と返事を返し、その後に大人しく着いて行く。

暫く歩くと、ある店の前で真田幸村が急停止。

「…甘味、処?」

「うん」

小さく呟いた俺に、猿飛佐助が頷く。

真田幸村は、といえば急に鼻息を荒くし目をキラキラさせながら早く入ろう!と猿飛佐助を急かした傍から一人で甘味処に突っ込んで行った。

そんな真田幸村に苦笑して、猿飛佐助も続く。

そんな二人に呆然としつつ俺も二人に続く。

「いらっしゃいませ〜!あ、幸村様、佐助様、お久しぶりです!…っと、新入りさん…?」

「え、あ…はい」

元気に挨拶をしてきた若い女性に何故か顔を赤らめ俯く真田幸村を無視し、猿飛佐助はいつものよろしくね、とその辺の席に着く。

猿飛佐助においでおいでをされ、戸惑いつつ真田幸村と猿飛佐助の向かいの席へ。

しばらくして、運ばれてくる饅頭と茶。

ただし、そこにはおかしい点が存在した。

いや、別に饅頭と茶がおかしいんでは無く、ただ、その饅頭の量が半端なかった。

その量は見てるだけでこっちが吐きそうになる位のかなりの量だ。

「…何ですかこの量」

「驚いた?これ全部旦那が食べるの」

「へー…って、ぅえ!?」

…あまりの驚きに変な声を出してしまった。

…だって全部?

「…この鬼のような量を」

「うん、この鬼のような量を」

「真田様一人で全部」

「旦那一人で全部」

「冗談とかでは無く」

「冗談とかでは無く」

…有り得ない。

俺は絶対に吐く。

そんな俺達を尻目に、真田幸村は饅頭を次から次へ凄い速さで口に頬張っていく。

「凄いよねー」

「えぇ…。気持ち悪くならないんですか?」

「何故ですか?美味しいですぞ!」

「いや、幾ら美味しいからって限度っていうも、ん」

呆れたようにそう言った俺は、急に入ってきた異物に息が出来なくなる。

俺の口に侵入してきた異物、とは真田幸村が食べている饅頭の一部、だった。

俺はじっと真田幸村を見る。

何故なら真田幸村が俺の口に饅頭を突っ込んできたからだ。

「ん?」

口に饅頭が入っているので上手く喋れないので短く『ん』という単語だけで何をしているのかを問う。

ちょっとの間何も言わずじっと見つめてきた真田幸村は、思い出した様ににっこり笑って言った。

「美味しいでござろう?」

…食えってか。

もぐもぐと口を動かし饅頭を咀嚼する。

…確かに美味い。

ごくん、と饅頭を飲み込んでから、真田幸村に返事をする。

「…はい、まぁ。けど、急に饅頭口に入れないで下さい、真田様…」

「…真田様、では無く。幸村と呼んで下され、結月殿」

「は?…えーっと、宜しいんですか?」

「勿論」

拗ねたような表情を近付けて真、いや幸村(違和感MAX)が言った言葉に分かりました、と返す。

「幸村、と」

「はい?」

「名を、呼んで下され」

「名…?って、幸…村様?で良いんですか?」

「…幸村、と」

「………幸村?」

「はい」

意味不明な行動の末、にっこり笑ってやっと離れる真田幸村。

…にしても美形だな。

何故か軽く微笑みながら饅頭を飲み込んでいく真田幸村を内心呆れながら見つつ、そんな事を考えた初めての買い物だった。





(緩い武将だな、真田幸村)







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