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オワリハハジマリ
質問

「…そ。じゃ思い出した所でもう一回聞く。あんた何者?」

「……………」

思い出したけど答えられない。

未来から来たなんて言えない。

「また沈黙?」

「一般人って言ったじゃないですか…」

「あのねぇ…そろそろ正直に話しなよ」

話せない。

話すつったって何を話せと?

「…話せないってのは誰かに口止めされてるから?」

「…違いますよ」

これ以上一般人で通すのは無理。

そう判断し、溜息をつきながら小さく返す。

「じゃあ何で?」

「…話しても、通じませんよ…」

頭が可笑しいと思われて終わり。

結果は目に見えてる。

「…通じない訳無いじゃん」

「通じませんよ…」

自分だってまだ信じられねぇからな。

自分が分からないのに、通じる筈もない。

「…どうしたもんかなー」

「…直ぐに僕を此処から追い出せば良いんですよ。疑わしいなら、殺せば良い」

目をそらしながら俺が放った言葉に、困った様に眉を潜めていたお兄さんの視線が集まる。

「元々死ぬ筈だったんですし…何も変わらない」

…そう、俺は死ぬ筈だった。

多分俺が遭った事故はかなりの物で、俺は死ぬ筈だった。

なのによく分からないまま何時の間にか俺は第二の人生を歩んでいて、その第二の人生もお兄さんが居なければ多分今頃は終わっていた筈なのだ。

(…何処からかズレた道を、今直せば良い)

「…アンタ、本気で言ってんの?」

「こんな時に嘘なんて言いませんよ…」

「…そうだけど」

「僕を拷問したって、出てくるのは訳の分からない事ばかりですよ。
時間が勿体ないし…無駄に疲れるだけです」

視線を少し移動させ、混乱した様な顔のお兄さんの目を見ながら話し続ける。

「貴方達の為にも、そうした方が良いですよ」

「……………」

「…って、お兄さんに言ってみても、直ぐには僕を殺さないんでしょうけど」

今迄とは打って変わって、俺がくすりと笑い声をあげながら微笑むと、戸惑った様だったが直ぐに笑い返される。

「確かに、旦那がアンタを此処に連れ込んだ以上、俺様は直ぐにアンタをどうこう出来ない」

「…旦那…って、さっきの紅いお兄さんですよね」

「そう」

「…って事は、此処あの人の家か何かですか?」

「いや。旦那の城ではないよ」

「……………城?」

…城、とはどういう事だろう。

てか旦那って…お偉いさんっぽいな…。

「…まさか僕、とんでもない人達に拾われたりしました?」

「とんでもないかどうかは分かんないけど…。
それなりに凄い所には居ると思うよ」

「…因みに、お兄さんのお名前を聞いてみても良いですか?」

「其処で俺様の名前なの!?」

「…あんまり凄い人から聞いちゃうと、心臓に悪そうですし」

ね?と問い掛けると、深い溜息が一つ。

「いや、別に答えなくても良いですよ?」

矢張り直ぐには無理か、と考えながらにこりとお兄さんに笑う。

(そりゃ、あやしいしな…)

「…俺様は、猿飛佐助」

「はっ!?」

「え?何?」

「え、い、いえ…」

(…この人…ガード堅いと思ってたのに、意外だ…)

名前なんて教えてくれないと思っていたのだが…。

予想以上にそうでもなかった事に驚きつつ、そしてお兄さんの名を頭の中で反芻する。

(つーか猿飛佐助って…この人も十分有名じゃねーか…)

「何?人の顔じっと見て?」

「えっ!?あ、いえ…」

しまった、じっと見てたのか。

自分の行動に心の中で小さく舌打ちし、そして視線の先に居るお兄さんの知識を掘り起こす。

(猿飛佐助…真田十勇士の長、だっけか。
…確か実在した奴をモデルにした架空の存在とか…実在しないとか、言われてるんじゃ無かったか…?)

…どういう事だ。

ちゃんと目の前に居るってのに。

しかもかなりの美顔と美声と強さを持ってるぞ。

(…あー…訳分かんねぇ。どういう事だ?つーかこの人…)

「あのさ…そんなにじろじろ見るの止めてくれる?」

「あ、はい、すみません」

…また見てたのか。

「…アンタは?」

「へ?」

「名前。何て云うの?」

「あ…えっと、」

質問に戸惑いつつ、名前を言おうと口を開く。

(ん?ちょっと待て)

が、直前で一つだけ引っ掛かる事を思い出し、何とかストップをかける。

(…名字…アウトか)

そう言えばこの時代は名字がある奴ってのは大体地位のある奴だ。

(…名前だけのが良いか)

「結月、です」

(面倒な事になるのも嫌だしな…)

「結月…随分変わった名前だね」

「…そうですかね」

「うん」

ふーんと言いながら俺の名前を繰り返すお兄さん。

「…何ですか?」

結月、結月、と何度も繰り返すお兄さんを見やり、何か?と眉を潜める。

「いや、結月って名前が珍しかったから」

「…だからってそんなに連呼されましても」

こっちは落ち着かないです、と、先程思感じた違和感を再確認する為に、試しにお兄さんに小さく抗議してみる。

「そうだね…ごめん」

「いや、別に…謝る事じゃ」

冗談っぽく笑いながらではあったものの、お兄さんの態度を見て、違和感が確信に変わる。

(…何か…若干警戒心解かれてんな…)

寝呆けていたからなのか何なのか、今更になってやっとお兄さんの違和感に気付いた。

「?どうしt「佐助ぇぇぇぇぇ!」

俺の様子に気付いたか、何かあったのかと問おうとしたお兄さんの言葉は、紅いお兄さん───お兄さんの名前から考えて恐らく真田幸村だろう───に遮られた。

…にしても元気だな。

慣れた事らしく、お兄さんは紅いお兄さんにどうしたのと冷静に問う。

「うむ!!お館様がそちらの御人と面会したいと仰ってな!」

「…僕に、ですか」

「起きられたと言ったら是非、と」

…お館様…真田幸村が仕えてる、って事は…武田、織田、豊臣のどれか、か?

そんなお偉いさんが面会?

(…何でだ?)

「あの…僕、只の一般人ですよ?」

「?それが何か?」

「…いえ、分かりました。
…謝罪と、お礼もしなきゃいけませんしね」

三日間も寝泊まりさせて貰った訳だし。

「おぉ!左様でござるか!しかし、動いて大丈夫でござるか?」

「えぇ。…ただ、何か羽織る物を貸して戴けると有難いです」

ついさっき気が付いたのだが、何時の間にか着物が真っ白な物になっていて、しかも薄いのか何なのか、布団から出ると少し肌寒かった。

「あぁ、それなら、はい」

「…有難うございます」

自棄に準備が良いな、と思いつつお兄さんから渡された上着を羽織り、俺はいやににこにこしている紅いお兄さんとその隣を歩くお兄さんの後に着いて行った。





(紅と橙のコントラストが目に痛い)







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