オワリハハジマリ 紅 「おぉ佐助こんな所にいたのか!」 そう言って走り込んで来た、否、突っ込んできた紅い人は、お兄さん(佐助と云うらしい)を見てにっこりと笑う。 …五月蝿い奴だな。 「旦那どうしt「さ、佐助!?お主何をしておるのだ!!」 紅い人は、お兄さんが俺の頬に触れ、俺とお兄さんが正面で見つめあっている状態を見て顔を真っ赤にあわあわと慌てふためいている。 …え、何この反応。 お兄さんが焦ったように俺の頬に触れる指をするりとはずす。 「いや、旦那これh「破廉恥でござるぅぅぅぅぅ!!!」 キーン、とリアルに耳の奥で耳鳴りがした。 ぶっちゃけマジうるさい。 ていうか破廉恥?何が。 「だーかーらー!違うってば!」 「何が違うのだ!どう見ても佐助が無理矢理その御人を……!」 「何処をどう見たらそうなるの!」 「何処をどう見てもだ!!」 …いや何処を見てるんだ。 何なんだコイツ等。 「ちょっとあんたも何か言って!」 「え」 何を言えと。 「えー…大丈夫ですよ、何もされてませんから」 「そう、なのです…っ!? き、貴殿、其の首はどうなさったのですかっ!?」 状況を理解出来たもんじゃなかったが、紅い人に肩を掴まれ揺さ振られていたお兄さんが死にそうだったので取り敢えず答えてやった。 の、だが。 漸くお兄さんを揺さ振るのを止めた紅い人が大きく口を開け俺を見る。 「首?」 咄嗟に首元に手をやる。 ぬるりとした血が指に触れ、紅い人の後ろに居たお兄さんが軽く息をのむ。 「…あぁ、コレですか」 「気付いておられなかったのですか!?」 佐助、布!と叫びお兄さんから布を引ったくった紅い人は、俺の首元に布を当てながら心配そうに俺を見ている。 「余りにも衝撃的な事が有り過ぎて痛みを忘れてましたから」 「こんなに血が出ておられるのに…!何処かで切ったのでしょうか…」 「そう、ですね…」 ちらり、とお兄さんを見る。 「……………」 無言で視線をそらす所を見ると、余りこの状況はお兄さんにとって良いものでは無いのだろう。 「…獣道を通って来たので、葉や枝で切ったのかもしれませんね」 にこりと笑う俺の首元から止まらずに溢れてくる血。 焦った様に紅い人はお兄さんを振り返る。 「…大丈夫ですよ、放って置けば直に止まる筈ですし」 「大丈夫では無いでしょう!先程から血がかなり出ておりますのにっ…!佐助!傷薬とか持ってないか!?」 「あー…分かった、俺様が治療するから、旦那は其処の川でこの布濡らしてきてくれる?」 「分かった!頼んだぞ佐助っ!」 先程の様に文字通り川があるのであろう方向へ突っ込んで行く紅い人。 はぁと溜息が聞こえたと思ったら、お兄さんが口元に何かを押し付け呑んで、と言ってきた。 「…何ですかこれ」 「解毒剤。 …結構時間経ってるのに血が止まらないの、可笑しいと思ったでしょ?」 「…まぁ。 でも、良いんですか?解毒しちゃって」 「…つべこべ言わずに呑んで」 不機嫌を隠す様子も無く、お兄さんに口内へ解毒剤を押し込まれそうになる。 「…呑みますから押し込まないで下さいよ」 はぁと一つ溜息をつき、そして口元の解毒剤を呑む。 「…っ、苦…」 「良薬口に苦しって云うでしょ? …直ぐに効くから」 「はぁ…」 首元の布を押さえながらのお兄さんの言葉に曖昧に頷く。 「…何で、言わなかったの」 「はい?」 「旦那…さっきの人に。 首の傷は俺様にやられたって」 暫くして呟かれた言葉に視線をお兄さんに合わせれば、本気で戸惑っている様な視線とかち合う。 「…別に、何となくです」 「何となく…?」 「佐助ぇ!濡らして来たぞ!」 「あ、うんありがと旦那」 走りこんで来た紅い人に驚く事もせず、布を受け取り首の血を拭き取るお兄さん。 次いで薬を塗ったらしい新しい布を首に当て、器用に包帯を巻き始める。 「さ、佐助、大丈夫なのか!?」 「ん?もう大丈夫だよ旦那」 お兄さんに布を渡してから何も言う事なくそわそわとしていた紅い人だったが、耐えきれなくなったのかお兄さんに詰め寄り問う。 「そ、そうなのか…」 即刻返って来た答えにたじろぎ、そして俺に視線を向けた。 「佐助、そういえばこの方はどちらの御人なのだ?」 きょとんとした顔で、紅い人は言う。 …今更? 「それが判んないから今聞いてたの。で、結局何者な訳?」 紅い人の言葉に溜息をついて、お兄さんも俺を見る。 …さて、どうするか。 未来から来ましたなんてとんだ笑い者だ。 「とりあえず敵…ではないです」 「…答えになってないって」 「甲斐でも奥州出身でもありません」 「それは聞いた」 「一般人です」 「…まだそれ言う?」 「事実ですので他は何とも…」 にこりと笑みを張り付かせたまま言葉を放つ。 (さて…どうやってこの人達から逃げるか…) 頭の中でそんな算段を企てつつ、敵意を放ってくるお兄さん、そして不思議そうに首を傾げる紅い人を盗み見る。 …どう考えても無理じゃないか? 二対一なだけでも無理なのに、この二人は中々に足が速そうだ。 (さて、どうするか…) 「…何時まで黙ってるつもり?」 「何時まで、と言われましても…。本当に一般人ですとしか言い様が無いんですけど、ね」 苦笑する俺に、お兄さんは軽く溜息。 「アンタがさっきしてきた質問。アレからも明らかにアンタは只の一般人じゃない」 「……………」 恐らくアレとは今は戦国か、と聞いた事なのだろう。 そりゃあそんな質問されたら一般人とは思いにくい。 …失敗(しくじ)った、な。 「…僕が一般人じゃないなら、どうするつもりなんですか?」 「…あぁ、認めるんだ」 「例え話ですよ」 くすりと声を出した俺に、お兄さんが何処か暗い笑みを浮かべた。 ふわり、と風が動くのを感じた気がする。 「勿論、無理矢理連れてくしかないね」 瞬間、耳元で囁かれた物騒な言葉と共に首裏に走った衝撃により、俺の意識は途切れる事となった。 (視界に最後まで映っていたのはやっぱりあの紅で、) [*前へ][次へ#] [戻る] |