世界のためにきみを失いたくはない
犬酸漿みーつけた
「マダム」
「あら、エリオット。どうかしたのですか?」
全体的に白い、保健室。
普段なら訪れることのないこの空間にも、四年生になってから、来なくてはいけない理由ができてしまった。
現在使用中のベッドは一つのようだ。そこだけ、カーテンが閉まっている。
寝ているのであろう患者を起こさないように、小声でマダム・ポンフリーに話しかけ、ガラスの小瓶を差し出した。
「薬が後少ししか残量が無いので、貰いに」
「そういえば、そろそろでしたね。ちょっとお待ちなさい」
マダムはそう言うと、部屋の奥へ向かって行った。
あの薬の力は相当なもののようで、しっかり呑んでいれば、禁断症状は全く出ない。
そのお陰で、あれからは一度も禁断症状には陥っていなかった。
「はい」
「ありがとうございます」
奥から戻って来たマダムに渡されたのは、先程渡したものと同じ瓶。
けれど、中身が増えている。その上、なんだかいつもの薬と形が違うような。
よく見てみると、錠剤に書かれてある番号のようなものが、違う感じがする。
「その薬ね、新しくなったんですよ」
「新しく……?」
「ええ。前の薬、ちょっと副作用が心配で。呑んだ日、身体に異変などはありませんでしたか?」
「……あ、物凄く眠かったりはします。でも、そんなのは常……」
「そうでしょう!だから、副作用が軽くなるようにしました」
「ありがとうございます……?」
「なのでこれからは、一日一錠呑んで下さい」
分かりました、と言い、誇らしげにするマダムを置いて保健室から出て行った。
シャッ、とカーテンの開く音がする。
「もういいのですか?」
まだ少し体調が悪そうな顔を覗かせて、彼は言った。
「もう、大丈夫です。最近は、傷も少ないですし。午後から授業に出ます」
「そう?無理はしないで頂戴ね」
「……あの、さっきのって、エリオットですか?」
「ええ、そうですよ」
寝ていたせいで少し乱れている鳶色の髪も気にしないで、彼は続けた。
「何の薬を貰っていたんですか?」
「ただの頭痛薬ですよ」
嘘をついてなさそうな笑顔のマダム・ポンフリーに向かって、眼を細め、にっこりと笑うと、
リーマスは、礼を述べた。
「そうですか。ありがとうございました」
―犬酸漿みーつけた―
(Even if it is used to defend him.(それが彼を守るためだとしても))