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世界のためにきみを失いたくはない
手紙の中身は紫陽花

重苦しい空気が漂うコンパートメント内。
行きの列車内では、結局この空気のせいでエリファレットに母親のことを聞けずにいた。
はっきり言って、本当は知りたくないということも理由の一つだ。
そんな中、エリオットは少し前のウィルバーとの会話を思い出して、少しばかり現実逃避をしていた。



「ウィルバー」

「……エリオット」

「悲しい?」

「…そうですね。旧友が死ぬというのは、とても悲しいことです」

「そうじゃないだろ」

「え……?」



困惑するウィルバーに対し、エリオットは昨日見つけた写真と紙切れを取り出す。
それをウィルバーに渡す。写真を見たウィルバーは、エリオットを凝視した。



「これは……?」

「父さんの部屋で見つけたものなんだ。写真立ての中に、その写真と紙きれが入ってた」



ウィルバーは紙切れの中に書かれた文字を見た。
彼はそっと涙を流すと、笑ってエリオットに礼を言った。



「…ありがとう、ございます」



エリオットはエリファレットに気づかれないよう、短く溜息を吐いた。
後は、エリファレットに聞くのみだ。
ダンブルドアが言うとおり、いつかは聞かなければならないのだ。
それならば、今しか機会はないかもしれない。
そう思ったエリオットは、迷ったすえ、思い口を開いた。



「あのさ、「あの、」」



エリオットが声をかけた瞬間、エリファレットからも声が聞こえた。
どうやら、同じことを考えていたらしい。
どう言おうか迷っていると、エリファレットが先に言った。



「あなたの言いたいことは分かってる」



エリファレットはそう言うと、懐から手紙を出した。その手紙は所々擦り切れている。
その手紙を、エリオットに差し出した。



「母があなたに書いたものだ。自分が死んだら渡すように言われていた」

「中身は」

「読んでいない」



エリファレットから手紙を受け取る。
差出人の名は、"クレア・アディンセル"。母親の名前だ。
封筒から取り出し、手紙を読んだ。その手紙の内容は、なんの驚きもないものだった。
エリオットは手紙を持っている指の力を強めた。
ばれることを恐れたと言いながら、本心から嫌悪していたに違いない。
口ではなんとでも言えるのだから。綺麗事を並び立てるくらい、容易にできる。
異父二卵生双生児?短命ではない?何の面白味も無い結末だ。
この手紙をすぐにでも破り捨てたい衝動に駆られたが、済んでのところで押し留める。
本当の父親が誰なのか、それは書かれていない。
ただその人の容姿と、純血であるということだけ。
死ぬ間際になってまで、なぜそうも隠そうとするのか。理解不能だった。



「……それじゃあ、彼女は死んだのか」

「…ああ、ヴォルデモートに服従の呪文をかけられて、あの力を使わせられ続けたんだ……!」

「…その間、君はどこに?」

「……アディンセル本家」



忌々しげに、そう吐き捨てた。
政略結婚した、あの名家のフラムスティードと離婚したのだから、アディンセル家からの風当たりはきつかったのだろう。
きっとクレアは、帰るに帰ることができず、エリファレットだけを安全な本家に預けたのだ。
それが仇となって、ヴォルデモートに捕まり、死ぬことになった。
あの時、何を言われても本家に帰っていれば、死ぬこともなかっただろう。



「母様が死んだのは、あなたのせいなんだ……」

「………」



エリファレットは俯きながら、静かに、しかし怒りの籠った声でそう言う。
まだ前のように声を荒げていない分、冷静なのだろう。
だが冷静な分、その言葉が感情に流されて言った言葉ではないことになる。



「あなたのせいではないと、自分に何度言い聞かせても、納得しないままで……。
母様もそれが分かっているのか、あなたのことには一切触れなかった。…死ぬ直前までは」

「……君は、俺が憎い、と。そういうわけ?」

「…そうだよ。あなたの存在自体が、母様の足枷だった。その足枷のせいで、彼女は死んだ」



エリファレットは、母親がエリオットのせいで死んだから憎いのだと言う。
エリオットが産まれてきたから父親と離婚した。
そのせいでアディンセル家にいることができなくなり、母親が死んだからエリオットが憎いのだと言う。
それはまるで、母親のためにエリオットを憎んでいるかのようだった。



「勿論、直接的な原因であるあの人のことも恨んでる。でも、根本的な理由はあなただ。
あの力を持った僕達が狙われることなんて、分かりきったことなんだから」



エリファレットはエリオットのことを、「あなた」と呼ぶ。
兄さん、と呼ばれたことは愚か、名前で呼ばれたことすらない。
レギュラスでさえ、嫌いなはずの兄であるシリウスのことを、兄さんと呼ぶというのに。
別にそれを悲しいとか、寂しいだなんて思ったりはしないのだが、ふとたまに思う。
自分は本当に、目の前にいる彼の兄なのかと。
そういった関係を表すものが、二人の間には一切ないのだ。だからたまに忘れてしまう。
兄というのは、何なのかを。



「……君は、どうなんだよ」

「ぇ……?」

「アディンセル家からの風当たりが強かったのは、母親だけではないだろ?」

「………」



先程から彼は母のことばかり。
自分だって母親に匹敵するくらいに、辛い想いをしたはずなのだ。
裏切り者の子供だと、蔑まれてきたに違いない。
なのに、自分のことに関しては、エリオットを責めない。
そんなことをされると、本当は恨みたくないんだ、なんていう考えが生まれてくる。
全く持ってありえない空想的な考えで、現実的なものではない。頭が可笑しい程に。



「……僕のことはどうだっていい」

「なんで、」

「……僕は、死んでないから」

「………」

「死んでしまったらもう、何もできないんだ。やり直すことも、誰かと一緒にいることも……!」



エリファレットの掌は、手を強く握り締めすぎて爪が食い込み、今にも血が流れそうになっている。
エリオットはそれを見て、なぜだか無性に苛立った。



「…僕はあなたに、その手紙を渡したくなかった。
母様に見ないよう言われているから中は見てないけど、渡したくなかった」

「………」



もうすぐでホグワーツに着く。
その証拠に、列車はゆっくりと減速していっている。
エリオットは立ち上がると、持っていた手紙をエリファレットの膝の上に落とした。



「見ればいいさ。どうせ、つまらないことしか書いてないし」

「………」

「それと……、…君はもう当主なんだから、泣くなよな」

「え……?」



エリファレットの目の下には、うっすらと涙が流れていた。
エリファレットは急いで涙を手で拭った。
丁度その頃駅に着いたようで、列車が大きな音をたてて止まっていく。
それを合図に、エリオットはコンパートメントから出て行った。


その後も暫く、エリファレットは列車内に留まり続けた。
エリオットが置いていった手紙を開け、中身を見る。



「母様……」



再度、涙が溢れ出た。
怒りからではない。実の父の遺体を目の当たりにしても出てこなかった、悲しみからの涙だ。



「……分かってた、本当は。…ごめんなさい、」






兄様。


























―手紙の中身は紫陽花―

 
(It is understood that it is meaningless even if I apologize.
(謝っても無意味だってことは分かってるんだけど))










紫陽花=無情


(オリキャラフィーバー、終了のお知らせ!
 今回、超gdgdです。自分でも呆れるくらいgdgdです。つまり、詰め込みすぎました!
 お願いです!見過ごして下さい!)










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