世界のためにきみを失いたくはない 木瓜の中での出会い エリオットが出て行った後の教室で、リーマスは一人でしばらく居座り続けた。 右腕の痛みに耐えつつ、今起こった出来事を冷静に処理しようとしていた。 なぜ彼は自分を助けたのか等々。 でも一番肝心なのは、リーマスが人狼だということを知っていた上での行動だったのか、ということだ。 もし知っていたのであれば、彼に話を聞かなければならない。 だが違うのであれば、何も言わないべきだ。 その話の内容によってはリーマスが人狼だということが、感付かれてしまうかもしれないからだ。 「………でも彼、何も言わなかった……」 喋ると口から白い空気が抜け出てくる。 授業が始まるまでは、温度調節魔法が使用されないためにとても寒い。 今朝はとても冷え込んでおり、氷点下にまで達しているようだった。 そうなると、室内であろうと酷く冷え込む。息が白くもなるだろう。 リーマスは彼が、エリオットだということに気づいていないようだ。 怪我をしている理由を聞かれると思ったのだが何も聞かれず、その上こちらの事情も察してくれたことに拍子抜けしていた。 そのことから、リーマスにとってエリオットは好印象だったようだ。 「…戻ったら、謝られるだろうなぁ……」 まだ完全なアニメーガスになれないこととか。 怪我をしているのを見たら、彼らは声を揃えて謝ることだろう。彼らのせいではないというのに。 それにどんなに優秀で天才だったとしても、たった一年かそこらで完全な動物もどきになれるはずがないのだ。 リーマスが彼らに真実を吐露したのが、一年と七ヶ月前の満月の日。 その二週間後だった、彼らが未登録のアニメーガスになると言ってきたのは。 それから毎晩、彼らは必死にアニメーガスを習得しようと頑張っていた。次の満月までには間に合わすという、無茶な目標をたてて。 他の二人とは違い、天才ではないピーターも失敗しながらも毎晩奮闘していた。 結局間に合わなかったため、着いて行くなどと言い出す前にいつもこっそり抜け出していたのだ。 「シリウスには怒られるかもしれない」 苦笑しながら、リーマスは立ち上がる。 彼らが起き出す前に戻りたかった。そして何もなかったかのように、いつも通りの朝を過ごしたい。 それで朝食の時間にでも、マダム・ポンフリーのところにいこう。 心配される前に右腕を治してもらわなければ。 もしまた、彼に会うことができれば、もう一度お礼を言いたい。 でも彼がどこの寮生なのかも分からなかった。なにしろ彼は、ネクタイを締めていなかった。 それにローブを観察する暇も気力も無かったため、なにも手がかりはない。 だが、どこかで見たような気がするのだ。しかも、結構会話の中にも登場するような。 「誰だったかな……」 冷え切って氷のように冷たいドアノブに手をかける。 誰だったかが思い出せない。少なくともグリフィンドールでは無いような気がしないでもない。 「それに、こんな時間にあんな所でなにを……?」 頭に疑問を抱えながらも焦点を彼らに戻して、上手く言いくるめられるような言葉を探すことに専念した。 ―木瓜の中での出会い― (It is a start non usually.(それは非日常の始まり)) |