長編小説 肆 幸村:side これは昨日の出来事………。 「ふっ!はっ!うりゃあああああっ!!」 ガキンッ、バキッ、ドカンッ!! と次々と鍛錬用の鎧を着けた的が壊れていく。 鍛錬は毎日欠かさずに行っているが、今日は何故か身体が鈍っている気がする。 「己の鍛錬不足が故!気を引き締めよ!!」 幸村は一喝して、再び二槍を振るう。 「やっ!ほっ!どりゃああああああ!!」 「身体が鈍ってる感じすんの?」 「佐助!!」 道場の梁から話かけてきたのは、真田忍隊隊長、猿飛佐助。 幸村が幼い頃から仕えていて、兄弟のように共に育ち、そして、最も信頼を置いているうちの一人。 それ故か、いつもタメ口であり。 「程々にしときなよー? 的もタダじゃないってのに…」 「う、うむ…」 壊した的の山を見れば、佐助が溜め息を吐く理由は明らかだ。 「それと、親方様が戻ってきてたよ! 1月も行き先を告げずに何処行っ「誠か! では、早速顔を見せなければ!」 丁度1月前、信玄は部下を連れず、“出掛けてくる”とだけ書き置きして、何処かへ行ってしまった。 それは今までで初めての事だった。 半月位までは何かお考えがあるのだろう、と思っていたが、流石におかしいと思い、忍隊に探させたが、理由どころか居場所すら分からない状態だった。 親方様が…!!!!ようやくお帰りになられた! 「おおぅやぁあかあぁたああすぅあばああああああぁあ!!」 そう走り出そうとした刹那。 ドオオォオオオォォン。 大きな音を立て、道場の扉が開く。 「親方様ぁっ! 御無事にござるか!?」 幸村は、心配、悲しみ、喜び等が混じり、興奮を隠せずに信玄に走り寄る。 が、信玄は一ミリたりとも動かない。 「親方…様?」 「ふんんんんっぬうぅっっ!!!!!」 「ぐっっっはあああああああぁあ!!」 ドカッッっという音の後に、信玄に殴られた幸村の身体は、200メートルはあるであろう道場の奥の壁に打ち付けられた。 「たっ大将!?!?」 そして、信玄は更に驚くべき行動をとった。 ドカッッ バキッ ガンッ グシャッ ズダンッ 幸村の起き上がる隙が無いような間合いで、殴り、蹴り続けた。 どの位そうされていたのだろうか。 「お…ゃかた…さ、ま………」 朦朧としてゆく意識の中。 「屑が。」 そう吐き捨てた親方様の言葉が耳に焼き付いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |