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天神
剣神


 セルラトスの攻撃は竜王チェーン程の威力は無い物の技量においてはチェーンを凌ぐ物があった。

「英雄の息子、剣神セルラトス、噂以上の実力」

 マーダを庇う様に前へ出たソグレスはセルラトスの剣撃をいなすので精一杯だった。

 ソグレスはマーダの剣術の稽古をするために雇われた剣士であった。実力で言えば、竜王チェーンと互角に渡り合ったチュース以上。安く見ても達人以上の力を持つ。

 そのソグレスからの反撃を許さない目にも止まらぬ乱撃、薙ぎから突きへ、突きから薙ぎへのモーションは限り無くゼロに近い。予測不能のその動きから隙を見つけるのは至難の技。そして、その攻撃はいつまでもいなせられる程、甘くは無い。セルラトスのスピードについて行けなくなったソグレスは大きな隙を作ってしまった。

 セルラトスの剣はソグレスの腹に情け容赦無く、振り下ろされる。

「ソグレス」

「ソグレスさん」

 ソグレスの腹から血飛沫が舞う。そして、それに追い討ちをかける様に浴びせられる突きと薙ぎの嵐。

 力を温存しなければならないマーダ。この場でソグレスを助けられるのはレイチェルしかいなかった。

 剣でも習っていれば、すぐにでも助けに行けるのに。魔術には呪文が必要。時間が掛かる。そんな自分が歯痒くて仕方が無いレイチェル。それでも、助けなければ。間に合え。レイチェルは呪文を唱えた。

「…地を翔けるは汝の刃…」

 レイチェルの呪文に応じる様に城の床が割れ、巨大な鎌状の刃が現れる。そして、鎌状の刃はセルラトスに向かって放たれた。ソグレスを滅多斬りにしていたセルラトスもそれに気が付き、軽々と身を躱す。しかし、

「フェイントです」

 既に二撃目は放たれていた。

 二撃目の鎌状の刃がセルラトスに直撃する。

「ソグレスさん」

「オォォォォォ」

 セルラトスの剣撃の嵐を受けて血みどろのソグレスは最後の力を振り絞るかの様に咆哮し、剣を突き上げセルラトスに振り下ろした。

 セルラトスの身体はソグレスの渾身の一撃を受け、音も無く朽ち果てた。

「セルラトス、すまない」

 血みどろのソグレスの身体は事切れた様に崩かかった。


「いやー、お強いですね、皆さん。 しかし、相手はアンデット。 この石の力で何度でも蘇る」

 天神を上へ掲げると、光が集まり始め、またしても剣神セルラトスが現れた。

「きりがない」

「くそ、こうなったら俺がこの手で」

 マーダはまた、柄だけの剣を手に取った。

「待て、マーダ。 こうなっては天神を奪うしか無い」

「いえ、ソグレスさん。 私に良い考えがあります。 ソグレスさんは何とか時間稼ぎをして下さい」

 レイチェルは呪文を唱えた。

「…我に答えよ、そなたに眠れる彼方の生命……そなたを守りしは、汝の庇護…」

 ソグレスの身体がみるみる癒され、身体に何かが纏わった。

「申し訳ありませんが、全回復ではありません。 それとシールドの魔術も施しました。 これで先程よりかは戦えると思います」

「有り難い。 時間を稼げば良いのだな」

「はい、少し大掛かりな魔術を使うので。 後、出来ればレイザードの注意も引いてもらえませんか?」

 そんな作戦を企てる中、セルラトスは突っ込んで来た。

「努力しよう」

 先程までと変わらないセルラトスの剣撃の嵐がソグレスへ降り注ぐ。やはり、いなすのが精一杯なソグレスだが、セルラトスの攻撃に慣れつつあった。ゼロに限り無く近いモーションだと思っていた剣技にも隙が見て取れ始めた。ソグレスとセルラトス、埋められ無いのは経験の差。それが二人の実力差を埋めた。

 セルラトスの薙ぎから突きへの変化に一瞬の隙が生じた。すかさず、ソグレスは剣の一撃を入れる。

「セルラトスに一撃を入れましたか」

 セルラトスの動きを一瞬止めたソグレスはレイザードの注意を引くため、そのままレイザードの元へ走った。

「セ、セルラトス、グズグズするな」

 レイザードの掲げる天神が一段と眩く光を放つ。すると、セルラトスは人とは思えぬ速さでソグレスの元へ向かい、背を切り刻んだ。だが、ソグレスはレイチェルのシールドの魔術によって無傷だった。

「レイザード」

「させぬ」

 レイザードの手から閃光が放たれる。

「うお」

 シールドの魔術に守られているソグレスだが、閃光の風圧により身体は吹き飛ばされた。

「危なかったですね。 ほら白痴者、さっさとあの剣士を攻撃しろ」

 天神がまた、一段と眩く光り輝く。またしても、セルラトスは人とは思えぬ速さで無防備なソグレスの元へ向かい、剣を振り下ろそうとしたその時だった。

「…天と地、逆さなるは地と天…」

 レイチェルの魔術が発動された。ソグレスとレイザードの居場所が入れ替わる。

「な、何だ?! そんな馬鹿な。 セ、セルラトス」

 剣神セルラトスの攻撃は止まらない。レイザードを捕らえる。

「や、やめ、のわ!」

 剣神セルラトスの剣撃はレイザード自身による魔術の支配が無くなるまで止まる事は出来ない。それは、レイザードが死ぬまで止まらない事を意味していた。



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