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天神
魔術師


 マーダの率いる小隊は、チュースとレイチェルの機転により、何とか城内への侵入に成功した。

 城内は兵士達が出払っているせいか、妙に静まり返っている。

「ここにも兵士はいると思ったが」

 静まり返った城内にどこか納得のいかないソグレスは辺りを見渡すが、やはり人影は無かった。

「レイチェル、幻術は仕掛けられていないか」

「はい、今の所怪しい物は見当たりません。 城内に幻術を仕組んでも味方まで幻術に冒される危険がありますし」

 レイチェルの冷静な分析はソグレスを納得させるに到った。

「そうか。 では、このまま狂王の元へ向かうとしよう。 マーダもそれで良いな」

「あぁ、構わない」

 狂王の元へ続く道は一つ。王宮の間へと続く螺旋階段のみ。

 マーダ達が螺旋階段へ足を掛けたその時、城内に不気味な声が響き渡る。

「城内に兵士が居なくて不思議でしたか? 実は城内の全ての警護はこの私、レイザードが一任されているんですよ」

 レイザードの名を聞いたレイチェルは、それまで冷静だった表情を崩し始める。

「魔術師、レイザード」

 古の怪物達を消し去った功績から、王の信頼をもぎとった魔術師レイザード。突然、城に現れたこの男の正体を知る者は国中に誰一人としていなかったが、レイチェルとは浅からぬ因縁があった。

「レイザード、姿を現わしなさい」

 レイチェルは杖を構え、呪文を唱えた。

「…森羅万象を照らすは七色の奇跡…」

 レイチェルの杖から七色の光が溢れだし、城内の至る所を照らし出す。七色の光に照らされる城内。しかし、螺旋階段のある一ヶ所に不自然な照らされ方をする空間が現れた。七色の光はさも意思があるかの様にその空間に集まり、散った。そこに現れたのは頭から深いローブを被った人の姿。

「こんな事をしなくとも、現れるつもりでしたけどね」

 それは魔術師レイザードだった。

「天神様を返しなさい」

「天神様。 はて、何の事でしょう」

「惚けても無駄です。 私の村の長を殺し、天神様を盗んだ所を見た者がいるのです」

「あぁ、あの石ころの事ですか。 天神様等と呼ぶから人の事かと思いましたよ」

「無礼者!天神様は石ころ等ではありません。 私達の村を見守って下さっている神様ですよ」

 レイチェルは怒りに声を震わせながら、言葉を続けた。

「レイザード、あなたは自ら召喚した古の怪物達を国中にばらまき、人々を脅かすだけに止どまらず、あたかもそれ等を退治したかの様に王の前で消しましたね。 本当はただ召喚術を解いただけなのに」

「それが何か」

……ッギリ

 レイチェルの歯を噛みしだく、生々しい音が聞こえる。

「まだ、分からないのですか。 あなたは王を騙したのです。 そして、天神様を使っての古の怪物達の召喚、侮辱です。 償いなさい」

「償う?それでは私をあの糞王子と同じく公衆の面前で王に滑稽に叩き切って貰いたいのですか」

「てめ、セルラトスを」

 マーダは懐から柄だけの剣を取り出した。今にも飛び出して行きそうなマーダをソグレスは、止める。

「マーダ、待て。 お前は力を温存しておけ」

「くそ」

 レイザードは二人のそんなやり取りを興味ありげに悠々と見つめた。

「マーダ、どこかで聞いた事のある名だと思ったが、あの糞田舎の国の王子の名ですね。 御伽話の勇者の末裔だとかの。 こんな所まで来て魔王でも倒しに来たのですか」

 レイザードはおちょくる様に笑い始める。

「その通りだレイザード。 お前が魔王を復活させると聞いてな」

 ソグレスの言葉を聞いてレイザードは笑うのを止める。

「……そうですか。 まぁ、ここまで大きくやってしまうとばれて当然でしょうかね」

 レイザードは懐から光り輝く石を取り出した。

「天神様」

「さて、誰から殺して欲しいですか。 それとも、皆さん、一緒に殺してしまいましょうか」

 天神を掲げたレイザードは召喚術を唱えた。

 レイザードの前に淡い光が集まり始める。集まった光は次第に人の形を作り始めた。ゆっくりと光は和らいで行き、そこに一人の騎士が現れる。マーダはその光景に己の目を疑った。

「セ、セルラトス」

 そこに現れたのは、セルラトス。狂王の手にかけられた悲しき王子。狂王に切られた深い傷から血が生々しく流れていた。

「ちょっと腐ってますがね、竜王にも引けを取らない実力だけはあった騎士ですよ。 糞白痴者でしたが」

「この外道がぁ」

「褒め言葉として取っておきますよ」

 レイザードに操られたセルラトスはマーダ達に向かって襲いかかって来た。



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あきゅろす。
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