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天神
竜王


「そうか。 その己より一回りも大きな剣を持つ大男、お前は王宮直属の騎士チェーンだな」

 チェーンは大剣を横に構える。少年達もまた、それぞれの武器を持ち構えた。

「何人足りともこれ以上先に進ませはしない。 それが私に定められた王からの厳命」

 大剣は破壊力が凄まじいがその重さ故に攻撃が単調となる短所がある。また、剣を振りかざした後に隙が生じやすく、多数の敵を相手にするには不向きな武器だった。だが、チェーンの大剣はそんな隙を感じさせはしなかった。バリガル王がピリオドを打ったグレイニーズ大戦時に生まれた伝説も数多く存在する。戦場にチェーンが現れただけで逃げ出してしまう兵士も居たらしい。チェーンの大剣による一振りは数十人をなぎ払える力があったという。その圧倒的な力は周囲に古の怪物、竜を容易に連想させた。

「王宮直属騎士チェーン、別名竜王チェーン。 伝説の中の存在のお前にこんな所で会えるとは」

 同じく大剣を所持するチュースは興奮気味に前へ出た。

「お前は、チュースか。 まだ、若いお前の武勇、数多く聞いているぞ」

「光栄だな。 竜王に覚えられているとは。 こんな所で会わなければ酒でも酌み交わしたい所だ」

 チュースとチェーン、大柄な男、二人は互いに睨みをきかせた。

 少年はその迫力に圧倒されつつ、息を飲んだ。とその時、少年の服の端が軽く、くいっと引っ張られた。少年は自然にそちらへ顔を向けた。

「マーダ様、チュースがチェーンを引き付けている今が好機です。 私の魔術でここに幻術を施します。 その後に魔術で姿を景色に同化させてチェーンに気が付かれない様に城内へ侵入しましょう」

 魔術師レイチェルの提案にマーダはすぐ頷いた。躊躇している時間は無い。

「チュース、頼む」

 チェーンには聞こえない様な小声でマーダはチュースに伝えた。

「マーダ様、大きくなったら酔い潰れるまで飲みましょうぜ」

「あぁ」

「では、行きますよ」

 レイチェルは杖を地面に突き刺すと、呪文を唱え始めた。

「魔術等、唱えさせはしない」

 チェーンはレイチェルに向かって突進した。大柄な体格に似合わない機敏な動き。マーダ率いる小隊との間合いは一気に詰められた。

「チェーン!」

 チュースもまた、大柄な割に動きは機敏だった。チェーンの動きに直ぐさま合わせる。

……ギンッ

 チェーンの重い一撃はまた、チュースの重い一撃により相殺された。辺りの空気が震え上がる。だが、それで竜王の攻撃は止まらなかった。突進力の分、チェーンにはチュース以上の勢いがあったのだ。大振りな大剣からは想像も付かない連撃が次々に繰り出される。

 これが竜王の力。

 チュースは不謹慎にも戦いを楽しみ始めていた。この者になら自分の全てをぶつけられる。それは今まで、自分と真面に組み合えた相手が見つからなかったチェーンにとって、喜び以外の何物でも無かった。

「お主、戦場を楽しむか。 気に食わぬな」

「お前、その身体……」

 チュースは己の目を疑った。

 突然、チェーンの身体が大きく膨張したのである。

 幻術か?

 チュースの疑問とその身は身体を大きく膨張させたチェーンの一撃で、共に吹き飛ばされる。

 幻術では無い。大きく膨張した身体に倣ったその物の力。チェーンは身体を膨張させた事により、単純に力を二倍にさせたのである。

 それまで互角に対抗していたチュースだったが、先程までが嘘の様な力の差。

「お主、魔術師に力を貰ったのか」

「騎士は王を守るためならば、どんな力でも手に入れる。 己の傲慢(プライド)等、ゴミ同然だ」

 チェーンは当然の様にマーダ率いる小隊へ足を向けた。

「さらばだ。 王に逆らえし、愚かなる者達よ」

 チェーンの大剣がレイチェルを完璧に捕らえた。魔術師のレイチェルに逃げられる術など無い。だが、チェーンの大剣は空を切り、地面に大きな衝撃音と窪みを作っただけ。まるで手応えが無かった。

「まさか、これは幻術か!?っ不覚」

 チェーンは自分の犯したあまりの失態に膝をつき、悔しげに土を掴んだ。

「戦場を楽しんでいたのは竜王、お前も同じだった様だな」

 チェーンの繰り出した予想を超えた攻撃に耐えたチュースが身体を起こす。

「おのれぇ!こうなったら、一撃で貴様を粉砕し、先に行った者達も皆殺しにしてくれるわ」

 チェーンの身体が更に膨張する。その勢いは、天まで届きそうな程に果てしなく、とどまる事を知らない。

 そして、チェーンの身体の膨張が止まった時、既にそこには王宮騎士チェーンの姿はどこにも無かった。例えて言うならば、古の怪物、竜。

「本当に竜王に成り果てるとはな。 面白い。 爬虫類はあまり好きでは無いが酒のつまみにさせてもらおうか」

 チュースは改めて、大剣の刃を竜王チェーンにいや、古の怪物、竜に向けた。



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あきゅろす。
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