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天神
狂王


 夕焼けがだだっ広い荒野を茜色に染めて行く。

「後少しで狂王の居城へ辿り着けるぞ」

 そう檄を飛ばす少年の後ろに続いて、大剣を所持した青年、黒い剣を携え顔に歳を刻んだ男、杖をもった少女が走っていた。

「しかし、広い。 広過ぎる。 門から城までの距離が尋常じゃない」

 門から城までのあまりの距離に大剣を所持した青年は首を傾げた。

「何かあるかもしれない……そう言いたいんですか?」

 杖を携えた少女は青年に慎重な面持ちでそう訪ねた。

「そうは言わないが、何かが不自然だ」

 戦乱のグレイニーズ大陸に自らの剣技で終止符を打った王、名を「バリガル・ラビス」。今、少年達はこの英雄、バリガルを討つため、一国全土に戦いを挑んでいた。

 昔は英雄と呼ばれていた王が狂王と呼ばれる様になったのは今から数年前。現れるはずのない古(いにしえ)の怪物達が国に現れ始めた頃へと溯る。

 王は国内最強の精鋭部隊に怪物討伐を依頼したが、全く歯が立たず、お手上げ状態であった。

 そんな中、王の元へ一人の魔術師が現れ、こう言った。

「古の怪物達を退治して見せましょう」

 それは国にとって願っても無い申し出だった。

 意気込み通り、魔術師は幾多の怪物達を一瞬で消し去った。その光景を目の当たりにした王は魔術師を強く信頼する様になっていった。

 それからである。王が狂い始めたのは。

 古の怪物達が現れ始めた原因は東西南北に存在する聖像が邪に犯されているからだと、助言されるとそれを破壊し、生け贄が必要だと言われれば女を買い集めた。

 魔術師の行動を不審に思った者が異を唱えると、謀反として時に国外追放され、時に首を切る始末。その所行はまさに狂行であった。

 また、狂王と呼ばれる所以を決定的にしたのは、自らの子を手にかけた事が大きかった。王位継承権第一位の王子「セルラトス・ラビス」は王の狂行が魔術師のせいであると考え、自らの直属部隊を魔術師に差し向けたのだが、脆くも返り討ちとなる。秘密裏に進められていた暗殺計画は無論、公の場で明るみとなり、王に知られたセルラトスは公衆の面前で無惨に叩き切られたのだった。

 自分達の生活に怯えた者、狂王を許せない者、王を狂王へと導いた魔術師を許せない者、魔術師の真の目的を知った者等、思いは多種多用だったが、「グレイニーズ大陸に平和を」と、願う同志が集まり勢力を増やして今、狂王の元へ向かっているのだった。

 城へ攻め入る際の計画は綿密にされていた。

 まず、城内の兵士を引きつけるため、何千というレジスタンスが城門から攻め入る。そして、その隙に少数部隊で城門内へ侵入。そのまま狂王の居城へ侵入し、討ち取るというシンプルな計画。

 シンプル故にリスクも高いが成功率も高い。そして、今こうして計画通り少数部隊による城門内への侵入は成功していたのだった。だが、大きな誤算があった。城内にいる魔術師の存在だ。何か城門内に魔術が施されているのか、いつまで走っても一向に城は近付いて来ないのである。

「……どうなってる?」

 先頭を走っていた少年が異常に気が付き、息を切らせながら立ち止まった。

「これは、うかつでした。 城内の魔術師による幻術かもしれません」

 杖を携えた少女は辺りを探る様に見回しながらそう言った。

「やはり、何か変だったろ。 俺の勘は冴えてたな」

「えぇ、お見事です。 チュースさん」

 チュースは歯を見せて照れ笑いする。

「だが、どうする? こっちにはレイチェル、お前しか魔術師はいないのだ。 何か手はあるか?」

 黒い剣を携えた顔に歳を刻んだ男がそう尋ねた。

「えぇ、ソグレスさん大丈夫です。 幻術だとすれば、パターンは何種類かに限定されますから。 チュースさん、そこの地面を割ってもらえませんか?あなたの桁外れな力でならば楽勝なはずです」

「おう、任せときな」

 チュースは背に携えていた大剣を片手で軽々と持ち上げ、両手に構え直した。

「……一撃」

 そう言葉を発したと同時に大きな振動と土埃が俟った。

「いつ見ても凄いパワーだな」

 少年は、半ば呆れた顔でその剣技を見つめる。

 土埃が収まるにつれ、窪みが現れる。と、同時に崩れた魔方陣も露となった。

「ビンゴです。 地面に、幻術を生み出す魔方陣が描かれていました」

「よし、これで要約城に侵入出来るな」

「いや、そう簡単に話は進まない様だ」

 ソグレスが指差すその先には大剣を所持した大柄な男が行く手を阻む様に立っていた。

「これ以上は行かせん」



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