ぷれ☆★いす
其の六
トキシラズに頭を悩ます光の長へ烈子は不満を漏らした。
「師匠、そもそもトキシラズって何。 時の力を操るって言ってるけど、それはトキシラズ自身が意識を持って行っている事なのか、植えた人が操っているのか、いったいどっち」
「うむ。 植えた人がトキシラズの力を支配して、時の力を操ると言われておる」
光の長はトキシラズを見上げながら説明を続ける。
「植えた初日は小さな芽、2日経って双葉、3日目には瞬く間に大きくなって蕾を付け、4日目で花を咲かせる。この花を咲かせた時点で時を操る力を持ち、人々から記憶の力を吸い取り己の魔力としている様じゃ。 吸い取る記憶はその日にあった事だけでそれ以上は吸わない様じゃが」
説明を聞けば聞く程、烈子は不満気な顔になっていった。光の長は不満気になっていく我が弟子にどう説明して良い物やらと、まゆをしかめた。と、そんな二人の間を隔てる様に良子が人差し指を立てながらサッと入って来た。
「れっちゃん。 それじゃ、何でその花が咲く前に切ってしまわなかったのかって聞きたいのよね」
ニコニコ顔で突然やってきた良子に一瞬驚いた烈子だったが、すぐに落ち着きを取り戻し真剣に答えた。
「はい。 何で良子さんや大介がすぐに切ってくれなかったのか。 そこが聞きたいです」
「そうよね。 私達、明日使いがサッサと切ってしまえば、こんな事にはならなかった物ね」
「はい」
張り詰めた空気が辺りに漂う。
「誰が悪い、何て事は言いたくは無いけれど、しいて言えば時の長の力をすぐに目覚めさせなかった大ちゃんが悪いのよ。 私は元明日使いで異変には気が付いていたけれど、それで私が切っていたら本来の時の長である大ちゃんが目覚められないし、成長も出来ないでしょ。 だから、私も大ちゃんが目覚めるのを待つ事しか出来なかったのよ。 ごめんなさいね」
「いえ……」
良子の丁寧な謝罪を受け烈子はそれ以上責める事は出来なかった。
「これで烈子も納得じゃな」
胸を撫で下ろす気持ちで光の長はホッとした。
「それじゃ、サッサとトキシラズ何て切っちゃって、早く目覚めなかった呑気な大ちゃんをみんなでタコ殴りにいきましょ」
「え!?それは」
冗談だとは分かっていてもさすがにタコ殴りは気が引けた烈子を尻目に光の長は異様に気合いを入れていた。
「うおぉおぉお!」
「さて、烈子やさっきの説明の補足じゃが、花を咲かせた後でも魔力の蓄積量によって姿の変化は無いが段階があっての。 時を止める事の出来るこいつは魔力を最大にまで蓄積した最終形態じゃ。 時の力を所有するこいつは時の力でしか切る事が出来ず、わし等は無力。 じゃが、わし等にもちゃんとやるべき事がある。 トキシラズを切る事に一点集中する良子を全ての物から守るのじゃ」
「分かった」
お互いの動きを確認しあう烈子と光の長。そして、トキシラズを切る良子は目を閉じていた。
「集中している」
ぽつらと呟く烈子の声に良子は片目を開けた。
「ん、ちょっと、私の力だけでは切る自信無くて。 奥の手を用意する事にしたわ」
「奥の手?」
「良子、まさか、あいつを呼ぶのか?」
光の長は奥の手を用意しようとしている良子を見て一歩たじろいだ。
「えぇ。 亀さんに会うの久し振りでしょ。 喜ぶわよ」
「わしは好きでは無い」
師匠が尻込みする相手って。
誰が来るのだろうと、良子は興味津津で亀と呼ばれる物を待ちわびた。
しばらくして、良子の目の前がジジッと音を発てて歪み始めた。
歪みはゆっくりと消えていきそこにガラパゴス陸亀の様な大きな亀が現われた。
「え、亀って、本当に亀」
良子の奥の手は大きな亀なのか、と目を点にしてそれを烈子は見た。
“あぁー!みなさん、お久し振りです〜。 クリスティーナ・青井ですよぉ”
その亀は間の抜けた声で大きく叫んだ。
「か、亀が喋った」
烈子は口をあんぐりさせている。
“嫌だな〜、亀だなんてぇ〜。 私は時の長の一人今日使いのクリスティーナ・青井ですよ〜。 ちなみに喋ってはいないですよ〜。 頭に直接テレパシーを送っているんです”
「いや、亀、今はそんな事言ってる場合じゃない。 トキシラズを切るのを手伝ってくれ」
“だから、亀じゃなくてクリスティーナ・青井ですって〜って、あー!光雄さんじゃないですかぁ〜。 お久し振りです〜”
「あ、こら馬鹿者。 擦り寄ってくるな。 お主は自分の身体の馬鹿でかさを知らぬのか」
クリスティーナ・青井と自らを呼ぶ亀は、光の長を押し潰す様に擦り寄って来た。本人は軽い抱擁のつもりらしい。
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