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ぷれ☆★いす
其の二

 自転車を怖がる良子を乗せて、自転車は順調に空を飛んでいた。

「初めて自転車を練習した日に近くのドブに嵌まって転んじゃったのよ。 もう、それから自転車乗れなくなっちゃって」

 自己弁護する様に聞いてもいない事を良子は烈子に話した。

「ほんと、大介のお母さんって面白いですよね」

 烈子は含み笑いをしてはにかんだ。

「え!? そう?」

「そうですよ。 それに明るいし、優しいし、きちっと大介の事も考えていて。 あたしの親とは大違い」

 笑顔で話しながらもどこか諦めを感じさせる様な口調で話す烈子。そして、良子はその諦めの感情を見逃さなかった。

「どんな親であれ、子供の事を考えていない親何ていないわよ、れっちゃん」

「じゃ、あたしの親は特別何ですよ」

 烈子は努めて笑顔で話す。顔色を決して変えない。

「れっちゃん……」

 良子はそんな様子を眺める事しか出来ない。まだ知りもしない人にお説教をする様な、心の中を土足で入る様な事は出来ないし、決してしては行けない事だと良子は思っている。

「れっちゃん、ちょっとれっちゃんの家へ寄って行きましょうか」

「嫌です。 あんな親見たくない」

 良子にお説教されるのかと思い、烈子は即座に否を説いた。

「いや、そうじゃなくて。 そのボロボロのドレスは取り替えた方が良いと思ったのよ」

 烈子は闇の手にボロボロにされたドレスを見て、否を説く事は出来なかった。

「服着替えたらすぐに出ますからね」

「えぇ、そのつもりよ」

 烈子にがっしり掴んだまま良子は笑顔でそう言った。

 自転車は進路を変え、烈子の家へと向かう。

 やがて、自転車は烈子の家へと辿り着く。

「本当、着替えたらすぐ行きますからね」

「分ったって」

 刺々しい口調で烈子は良子に言い放つ。

 烈子は家へ入るため、ドアノブに手を掛けるも動かない。

「あ、れっちゃん、時間止まってるから。 ちょっと待って。 家の中の時間を動かすわ」

「え!? 良子さん、家の中の時間ってまさか……」

 良子がドアノブに触れると、家全体が「ズン」と音を発てて振動した。

「家の中、全部よ。 服だって時間を進めないと」

「家の中にいる人の時間は?」

 ジト〜とした目、ジト目で烈子は良子を見つめる。

「もちろん、動い……あ!」

「あー、じゃないですよ。 これじゃ、あたしの親まで動いちゃったじゃないですか」

 これでは親に見つからないで服を着替えるのは難しい。

 烈子はこれが大介の言っていた良子さんの天然か、と半ば呆れ顔で良子を睨んだ。

 良子は「ごめんなさいね」を連呼している。

「親の時間を止める事は出来ないんですか」

 烈子は良子に確認した。

「出来ない事は無いけど、それじゃトキシラズを切る力が足りなくなっちゃうのよ」

 何となく予想通りな答えに烈子は「そうですか」と頷き、何だか嵌められた様な気分になりながら気を新たにした。

 そう、着替えるだけだ。着替えてすぐに出て来れば良い。
 烈子は素早くやれば、出来ない事は無い様な気がしてきた。よし、と気合いを入れ烈子は玄関のドアを開けた。しかし、悪い事は続く物。ドアを開いた目の前には烈子の母親張本人が立っていたのだった。

「あ゛……」

「烈子、あんた何やってるの?」

 烈子に化粧をした様な若々しい女性。それが烈子の母親だった。

「何? そのお子ちゃまドレス? そんなの着て恥ずかしくないのって、何?ボロボロじゃない。 なにがあったの?男にでも殴られた?」

「違う。 あんたと一緒にしないで」

 目を逸らし、冷たい口調で烈子は言い捨てる。

「まず、いいからこっちおいで。 可愛い顔が台無しじゃない」

 烈子の母親は烈子の手を取り、家の中へと引っ張ろうとした。が、烈子はその手を乱暴に振りほどいた。

「母親ぶるんじゃねぇ」



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