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ぷれ☆★いす
一日☆★始まり

 窓に掛かった青色のカーテンが朝の柔らかな日差しを一層和らげ、部屋を淡い青色で包む。

 部屋にはタンスに本棚、机にベッド、どこの家にでもあるだろういわゆる、生活必需品が規律正しく置かれていた。
 要はこの部屋はきちっと、整理された特別特徴の無いシンプルな部屋だった。

 そんなシンプルな部屋に寝ぼけ眼の男が一人、床の布団で半覚醒していた。
 寝ぼけ眼でその男は何かを探すように頭の隅を手探りし始める。そしてその手に時計が触れ、男はおもむろにガバリとその時計を鷲掴みした。

「朝の6時か……」

 随分と早くに起きてしまった。昨日と同じ朝を迎えている様で男、大介は気持ちの悪さを感じたが、一日が繰り返されているのだから、仕方が無い。トキシラズの魔力により、また、昨日と同じ朝がやってきたのだ。

 いつも自分が眠っているベッドには昨日大介が試しに呼び出した光の長の弟子だと名乗る女の娘、烈子が穏やかな寝顔を浮かべて眠っていた。

 いったい、これからどうなるのか、烈子の顔を眺めて大介はただただ不安な気持ちに襲われていくのだった。

 自分の使っていた布団を畳んで押し入れへとしまい、気持ち良さそうに眠っている烈子を起こさない様に足音へ注意を払いながら、大介は一階へと降りて行った。

 一階のリビングからザクザクザクッと、リズミカルに野菜を切る包丁の音が鳴り響く。母、良子が朝食の支度をしているのだろうか。味噌汁を作るのかカツオだしの様な良い香りも広がっている。

 母さんがこんな早くに起きて、朝食を作っている。

 良子は低血圧ぎみで朝に弱く、大介が先に起きるなんて日なども珍しくなかった。そんな母親が早起きをして、朝食を作っている。そんな姿が大介から眠気を奪い取り、代わりに戸惑いを感じさせる。

「どうしたの。 こんなに早く」

 大介は戸惑いに目を瞬かせ、呆然と良子を見つめる。

「あら、大ちゃんだって早いじゃない。 どうしたの」

 昨日、リビングですすり泣きしていた良子はすでにそこにはおらず、いつもの様に花がちりばめられた様な明るい笑顔の良子がそこにいた。今日も若草色のエプロンを身に付け、腰の辺りにタオルを安全ピンで留めている。

「それは、明日使いの事とかもっと知りたかったから」

 「ザクザクザク」

 大介の話しを聞いていないのか良子は野菜を切り続ける。
 そんな良子の態度に少し、むっとする大介。
 無視をしている訳では無く、もしかしたら聞こえていないのかもしれない。自分にそう言い聞かせて大介はもう一度、良子に言った。

「明日使いの事とかもっと…」

 大介がもう一度めんどくさそうな声で言い始めると、その言葉を途中でかき消すように良子は

「そんなのわかってる」


 と言って、野菜を切る手を止めた。
 取り乱した様な声の混じる良子。しかし、そこには先ほどと変わらぬ笑顔があった。

 何か考えがあるのかもしれない。大介は変わらぬ笑顔を保つ良子の次の言葉を待った。

 良子が大介の方を台所からちらっと横目で見る。

「そのために母さんも早起きしたんだから」

 そう大介に告げると良子は棚からガラスのコップを、冷蔵庫から牛乳を取り出し、大介の所へ持っていく。

「はい、まあ牛乳でも飲みながら話し聞いて頂戴」

 やはり、笑顔で良子は大介にそう言った。

 昨日、泣いて何かが吹っ切れたのだろうか。そんな事さえ思わせる良子の表情。いや、吹っ切られるのも息子である自分の事がどうでもよくなってしまったという意味合いにも取れるのでそれはそれで嫌なのだが。良子の考えが読めず、大介はもんもんとしてそんなことを考えていた。
 とりあえず、持ってきてくれた牛乳を大介はガラスのコップへ注いで一口飲んでみた。

 うん。おいしい。

「あ、後でれっちゃん下に呼んできて。 2階にいるんでしょ」

 唐突に良子は朝食の準備をしながら、大介に声をかけた。

 良子に烈子が泊まる事等一言も伝えていない大介は驚き、凝り固まる。

「何でそれを」

「前に母さんも同じ様な事経験してるから。 服もパジャマしかないんでしょ。 れっちゃん、体小さいから私の服きれるかしら」

 どっちの経験だ。俺か、烈子か。
 そんな所で大介は一人で頭を悩ませた。

「前に経験ってどういう……」

「それがこれから母さんが話す明日使いの事に繋がるのよ」

 朝食の支度をしている良子はおたまを持って大介に片目を瞑って軽くウインクする。

「味噌汁、煮立ってない」

「あ、きゃあ、味噌汁味噌汁……」

 良子のはしゃぐ様に話す様子を見て、味噌汁がおろそかにされているのでは無いかと思って大介は言って見たのだが、案の定だった。本当にこの人から何かを教えてもらえるのだろうかと、大介は一寸、不安な気持ちに駆られるのだった。



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