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ぷれ☆★いす
光☆★闇

 大介は全身の力を抜いたかの様に起こしていた体をベッドへと戻した。
 何の特徴も無い天井の壁紙を見つめる大介。

「チッ、チッ、チッチ……」

 頭の上にある時計の秒針の単調で規則正しい音だけが、部屋に響いている。

「ガチャッ」

 部屋の入口であるドアのノブの音が聞こえて大介は顔をそちらに向けた。
 そこには細身で髪を後ろに一つで結い、澄んだ眼が特徴的な優しい顔立ちをした女性が立っていた。
 大介の母、良子である。

「大ちゃん、具合の悪い所、悪いけど、ちょっと下に来てくれない?大事な話しがあるの」

 眉間にしわを寄せて唇をキッと一つに結んで厳しい顔をする母、良子。
 普段、見ることの無いその表情から、これから話される事が本当に重大な意味を持つ話しなのである事を大介に想像させた。

「分かった。 今行く」

 そう言いつつも大介は顔を前に戻し、ドア側の腕でだるそうに顔を隠した。

「出来るだけ早く来てよ」

 大介の嫌々そうな態度に眉をしかめた母、良子はそう促して一階へと降りて行った。

 大介にはその大事な話しがこの不思議なイメージの事である様な気がしてならなかった。

「面倒だな」

 ぽつらと呟き、大介は体を急激にぐっと起こして、一階へと向かった。

 階段を重たい足取りで降りて行った大介は青色の暖簾で仕切られたリビングへ足を踏み入れた。

 白色のシンプルな絨毯に部屋の横にはテレビや飾り棚が並び、真ん中には桃色のチェック柄が特徴的なテーブルクロスの敷かれた足の短い食卓テーブル、奥にはアイボリー色の二人がけソファが金魚の水槽と共に並んでいた。
 いつもと変わりの無いリビング。だが、そこに見慣れない老人がソファに腰掛けていた 。
 老人は大介と目が合うと愛想良さそうに手を振った。

「おぉ、大丈夫だったかな。 儂が手助けしたとは言え、あの痛みからすぐに立ち上がるとは。 さすがじゃのぉ」

 事情が飲み込めない大介は自分と見識の無い饒舌な老人を目を細めて無言で見返す。如何にもあんたは誰だと言わん許りの面持ち。

「ポポポポポポ……」

 どこか険悪な雰囲気の中、リビングには金魚の水槽から聞こえる涼しげなエアーポンプの泡音が絶えず、静かに鳴り響いていた。

 こいつ、誰だ。馴々しい。

 前述した様に大介にこの老人との見識は無い。あの大介を襲ったイメージの地獄から救い出したのはこの老人なのだが、大介はあの時、我を失っており、覚えていなかった。

「大ちゃん、何見つめ合ってるの?そこに座ったら」

 オレンジジュースを持ってキッチンから登場した母、良子が立ちすくむ大介にそう言った。

「あ、うん」

 母、良子に言われて大介はテーブルの前へと座った。大介の前にオレンジジュースが置かれる。

 母、良子に声を掛けられた大介は気持ちを和らげたが、それも一瞬でまた、老人を無言で見返していた。

 大介と老人を取り仕切る様に母、良子が二人の間に座る。

「おほん、こちらのお爺ちゃんは間光雄(あいだ みつお)さん。 大ちゃんがさっき苦しんでいた所を助けて家まで連れて来てくれたのよ」

 不自然に咳払いをして、良子は大介へ端的に事情を説明した。

「あ、どうも」

 しかめっ面のまま、大介は老人へ頭を下げる。

「当たり前の事をしたまでじゃよ。 まぁ、それよりも覚醒おめでとう。 もう3回目の今日であるが、自ら覚醒するとはさすがじゃ」

「そうね。 良く頑張ったわね」



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