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side.小十郎





彼方此方に積み重なった書を片していると、たまに背中に足が当たって腹が立った。

無言で睨んでおいたが、幼子のようにごろごろと転がる政宗様がそれに気付いたかは微妙なところだ。



「なぁ、小十郎」



漸く書物の束が一か所に纏まった頃、読んでいた書を懐に戻し動きを止めた政宗様が真面目腐った声をかけてきた。


俺が片付けるの待ってやがったな……この野郎。



「何ですか?」

「……兄上は、今どこに居ると思う?」

「宗像ですか……」



それを顔に出さずに、政宗様が懐にしまった書を見る。


さっきまで政宗様が読んでいた書。

あれだけボロボロで政宗様が持ち歩く書は、宗像に貰った南蛮の書しかない
それをこの部屋で読んでいたということは、まぁそういう事なんだろうとは思っていたが……。



「さぁ……小十郎には分かりませぬ」

「Really?」



ごろりと一際大きく転がり、俺の視界の下に入り込んできた政宗様。

到底一国の主には見えないその姿に、溜息が出そうになったが何とか飲み込んだ。



「政宗様、もう少しちゃんとなさってください……」

「……この部屋は立ち入り禁止だろ。No problemだ、はぐらかすんじゃねぇよ」

「大事なことを言ったと思いますが」

「ぐっ……本当に知らねぇのか!?」



バツが悪そうに背中を向けたかと思えば急に起き上がり、畳をバシバシと叩きだした。

確かに一般兵は立ち入り出来なくなっているが、それでもこれとそれとは話が別だと思う。


だが、どうもこれは意地でも聞き続けるな。



「……伊達を出た時の目的は知っていますが、もう昔の事ですから」

「目的?何だ?オレのこと以外に何かあったのか?」



畳を叩くのを止め、目を細めた政宗様。
食いつき具合が半端ないな……。


まぁ、宗像は本当に政宗様を避けとおしたからな。

輝宗様も義姫様も結局宗像について何も語らなかったうえに、伊達の連中も何も言わない。

まぁ宗像は基本的に書を読み漁っているような奴だった。
直接関わった連中は少ないし、知っていても上っ面しかしらない連中が多い。


政宗様が興味を持つのは、自然といえば自然だ。



「一番は、貴方の事です。ですが伊達を出る前に輝宗様に旱様の事をお聞きになったそうです」

「ヒデリ……兄上の母上か。亡くなったと聞いたことがあるが……」

「色々事情があって死んだことになっているが、旱様は生きている。宗像はそれを知った」

「会いに行ったってことか?」

「おそらくは」



ふーんと、興味なさげに呟いたかと思えば、再び畳の上に転がる。


だらしない。
今の政宗様を見れば泣くかもしれない。
俺は教育の仕方を間違えたのかもしれない。
済まない宗像。

俺は出そうになる涙を必死に堪えた。







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あきゅろす。
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