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死んだように眠る





あの愉快犯が片倉小十郎の妻の元カレだと確証したのは、俺が片倉の最期の言葉を聞く少し前だった。



片倉と結婚する前に付き合っていた前の男。
付き合っていた、と表していいのかも分からん関係。


言ってしまえば、財布に近い。
動くATM、電子マネーもそれに近しいのか?


形ばかりのデートで、ブランドものを貢いでもらう。
金銭がらみは全部男もち。
それでも、なまじ見た目が良いだけにその男は必死に金を貢いだ。
裏では平然と他の男に抱かれているという事実を、巧妙に隠しながらその女は平然と純情を装った。


そして平然と男をフった。


別れたくないという男を一蹴して、あっけなく片倉と結婚した。
名家の片倉家に嫁ぐために男の存在は邪魔でしかなく、徹底的に男の前から居なくなった。

男が大事にしていた思いでもすべて燃やし、貢ぎ物も金に変え、全てを清算し偽りの仮面で名家の妻の座を手に入れた。
そして女としてはそれは確かに、数ある幸せの1つの形だろう。
富を手に入れ、夫を手に入れたのだから。


だが、それを認められない者がいた。
理不尽にフラれ、思いを強制的に捨てられた男は、片倉を恨んだ。

物的証拠は燃やせても、男の思いまで灰に変えることは出来ない。
今の時代、たった1つの情報漏洩がその人物の全てを知ることとなり得るかもしれない。


そのいい例が、今回の事件だった。



俺が気付いたのは偶然だった。


片倉に自分の昼飯を頼んで、事務所の窓からそれを見送った時。
素人にしては上手く隠れたそいつの憎悪の篭った目を見付けた。
そいつは直ぐに俺の視界から消えたが、俺が疑いを持つには十分だった。


そこから俺は片倉に恨みを持つものを探したが、仕事柄恨みを買うことなんてしょっちゅうで、今まで片倉が関わった仕事を洗い直すので相当な時間を食った。



そして片倉の妻に辿り着き、確証を得た矢先だった。



――片倉小十郎は、俺の判断ミスにより死んだ。



俺は確証を得るよりも先に、片倉の傍に居るべきだった。
それか片倉に有給消費を理由に休ませればよかった。


それをしなかったのは、俺のミス。
傍に居なかったのはどうしようもない苛立ちが、爆発するのを恐れたから。
休ませなかったのはあの女の傍に居ることが耐えられなかったから。




――片倉を殺したのは、俺だ。



どうしようもない俺の自己満足と保身のせいで、片倉は自分の子供を抱くことなく死んだ。
お前の告白に答えることもできない臆病者のせいだ。



謝ることも許されないこの現実から、今はただ眠らせてくれ。





(本当に死ねたら幸せだろうか?)






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あきゅろす。
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