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異人乃戀-コトビトノコイ-
勉学 六
 三人のやりとりを静観していた志瑯が部屋に入ろうと襖に手をかけると、鷹宗が瞬時に動き、襖を開けた。
 その際に持っていた書物を落としたが、鷹宗としとは機密な文章が書いてある書類よりも志瑯の方が大事なようだ。
「鷹宗、大事な書物を落とすなよ」
「……うるせー、咏」
「しー様もおっちょこちょい鷹宗に何か言うべきだって」
 鷹宗と湖阿と咏で散らばった書類を集めながら、鷹宗に部屋まで強制誘導された志瑯に咏が言ったが志瑯は何も言わない。
 気にしていないということだろう。何か思っていても、無口だから言わないだけかもしれないが。
 鷹宗がこのような失態をすることは少なくないため、いつものことだと諦めている可能性もある。
「志瑯は鷹宗を甘やかしすぎよ」
「そーだぞ。躾はしっかりやらないとな」
「うるせー!つーか、咏に言われたくねーよ!」
 少しは身に覚えがあるのか、湖阿を睨みはしたものの、突っかからなかった。自分でも少しは思っているのだろう。
 志瑯は信頼した仲間には甘いのだ。
 湖阿は騒いでいる二人を後目にさっさと書類を広い、最後の紙を手に取りどうにか読めないかとチャレンジした。
 しかし、読めるはずはない。
 書類片手に落胆していると、奪い取られるように手から書類が離れた。
 驚いて横を向くと、鷹宗が書類を持って真剣な顔付きで立っていた。
「……読んだのか?」
「は?読んでないわよ」
「本当にか?」
 余程大切な書類なのか、真剣な顔付きで迫る鷹宗に、なら落とさなければいいのに。と思いながら首を横に振った。
「鷹宗、字が読めないから大丈夫だ」
 咏の言葉に、喧嘩を売るのが好きな鷹宗のことだからそれをダシにして何か突っかかる言葉を言ってくるかとおもったが、余程読まれたくない内容だったのか、何も言ってこない。
 書類と書物を部屋に入れた鷹宗は、何か用事があるのか早々に部屋を出て行った。
「何も読めなかったか?」
「うーん……世(よ)と主(ぬし)って文字は分かったけど、ほかはあんまり見れなかったから」
「世(せい)と主(しゅ)ね……」
 咏の言葉に、湖阿はどこかで聞いたことがあると思った。
「世主……救世主?」
 つまり、あの書類は救世主である湖阿について書いてあるものだったのだ。
 湖阿について書いてあり、慌てていて見てないかあんなに真剣に鷹宗が言った書類……。
 自分について書いてある書類を隠され、いい気はしない。もし文字が読めていれば、何が書いてあったか読めたのだ。
 もし、批判的な文章が書かれていたとしたら、読まなければ良かったと思う。しかし、読めていないのだ。
 批判されているのなら、そういう人も居ると気を付けて生活ができ、重大であれば自らの意志で出て行くこともできる。
 重要な書類を盗み見したいわけではないが、文字が読めないと分からないことが沢山あると分かり、湖阿は再度、文字も習おうと心で誓った。

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あきゅろす。
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