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異人乃戀-コトビトノコイ-
日常
 如月湖阿(きさらぎこあ)は一人教室で、箒(ほうき)片手にため息をついていた。
 何故、授業が終わり、ほとんどの生徒が部活や帰宅をした中、掃除を一人でしなくてはならないのだろう?
 何が悪かったのだろうかと必死に考え、頭から絞り出そうとするが、何も出てこない。
 掃除のフリをしながら窓の方へ行くと、窓を開けた。すこしじめじめした、しかしどこか心地良い風が湖阿の傍を通り抜ける。
 帰宅部の湖阿はいつも早々に帰ってしまうため、放課後学校にいることはあまりない。なので、この独特な放課後の雰囲気に触れるのは初めてだ。
 この人のにおいが微かに残った誰もいない教室は、誰かまだ居るように錯覚させる。
「早く帰りたいのに……。……ざけんじゃねー!」
 湖阿の叫び声は教室に響くだけで、すぐに消えた。残った虚しさは湖阿をさらに腹立たせる。
 箒を床にたたき付けようとしたが、廊下を歩く音がしたのでなんとか抑えた。
 この怒りの力を掃除に向けようと、少々荒っぽく箒で掃き始めるが、すぐにやる気がなくなる。 皆が使って皆が汚したのに、何故一人で掃除しなければならないのか、と。
 元はと言えば、クラスの男子が悪い。授業中、湖阿が寝ている時に耳元で「火事だ!」と言い、寝ぼけている湖阿は当然慌てて起き上がり、「火事!?」と叫び先生に怒られたのだ。
 しかも、その時に限って評判の良くない、意地が悪い先生で今の現状に至るのだ。その先生の時を狙ってやったのだろうが。
 湖阿は男女共に仲が良い。明るくて少し男勝りな所があり、女子には頼りにされ、男子とはよく野球をやったり、サッカーを昼休みにやっている。男子に今回のようなことを湖阿がやることもあるし、やられることもある。やる方が多くて、やられる回数は少ないのだが。
 何度思い出しても腹が立つ湖阿だが、掃除をやらずに逃げ出さないのは、実は真面目な性格故にだろう。 小さい頃から責任感や正義感が人一倍強く、一度頼まれたことはやらないと気が済まないタイプなのだ。

退
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あきゅろす。
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