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異人乃戀-コトビトノコイ-
日常 二
 一時間程かけて掃除を終わらせると、カバンに教科書類以外の物を詰め込む。 湖阿は教科書は持ち帰らない派で、ロッカーにしっかり整頓して本棚のように置いている。
 軽いカバンを軽々と持つと、解放された嬉しさから鼻唄を歌いながら教室を出ようとした。
 が、ドアに手をかけようとした所で動きが止まった。さっきまで開いていたはずのドアが何故か閉まっていたのだ。
 記憶違いかと思ったが、掃除をする前に湖阿自身が開けた。途中、この教室にはだれも来なかったし、もし誰かが閉めたとしても音で分かる。
 それに……何故学校のドアが引き戸になっているのだろうか?明らかにおかしい。湖阿は手を離すと、少し後ずさった。
 生まれてから十七年、湖阿はこんな不可解な出来事に遭遇したことは一度も無かった。霊感があるわけではないので、幽霊なんて見えないし信じていない。
「いじめ?」
 自分にとって常識の範囲外のことは信じず、無理矢理にでもそうだと思い込ませて恐怖を気のせいにしようとしたのだろう。
 湖阿はドアの向こうに仕組んだ張本人が潜んでいるとみて、ドアを勢いよく開けて廊下に片足を出した。
「え?」
 床につくはずなのに、足の裏は開放感に溢れている。慌てて下を見たが、いつもといつもと変わらない薄汚れた廊下。ドアもいつもと変わらない、ガラスの部分が割られてガムテープで補強されているドア。
「気のせい?」
 湖阿は気のせいだ、ただ解放された喜びで頭が少しおかしくなっただけだ。と思い込ませると、教室を出た。
 昇降口で靴を履きかえて外に出ようとすると、またドアが閉まっていた。しかも、ガラスで出来ているはずのドアは、何故か襖(ふすま)になっている。
 明らかにおかしい。どこの学校で昇降口の入口を襖にするのだろう?もし、これが現実だったらこの学校のハゲ校長は完全に正気じゃない。と考えながら、携帯電話を鞄から探しだした。
 まだ学校に居そうな友達に電話をかけてみるが、出ない。軽く携帯依存している友達が出ないはずはない。
 湖阿は今更こわくなってきた。不可解すぎる。もう、友達のいたずらとは考えられない。否、いたずらだったらどんなに良いだろう?
 湖阿は昇降口を離れると、階段を駆け上がった。どうして?どうして?と頭をフル回転させても、納得できる答は見付からない。
 途中で階段の段差に躓(つまず)いて転びながら、必死に走った。しかし、恐怖は消えてはくれない。むしろ、さらに増すばかり。
 誰かが追い掛けているわけではないのだが、声が聞こえる気がする。待て、待て、と。
 階段を上りきり、屋上に出ると思わぬ光景が湖阿の目の前に広がっていた。
 紅色の空からのびた一筋の光が屋上の中央を照らしている。
 湖阿は知らない内に光に近付いていた。何かに手を引かれるように右手を伸ばして歩いていた湖阿の指先に光が触れた。
 その瞬間、湖阿の身体は妙な感覚に支配された。暖かいが、どこか冷たい。
 何が起こったのか理解する暇もなく、湖阿は意識を手放した……ーー。

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