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異人乃戀-コトビトノコイ-
玄武族の長
 廊下の突き当たりの部屋に入ると、咲蘭と陸丞、そして美しい銀の髪の女性が座っていた。
 女性は初見ではきつい性格かと思ったが、直ぐに違うと分かった。
「ようこそお越しくださいました……救世主殿」
 優しい笑みを浮かべる女性に、湖阿は思わず凝視してしまった。
 そして、すぐにこの女性が玄武族の長であると分かった。
 促されるまま湖阿は女性の前に座ると、その隣に志瑯も座った。
 この部屋には段差というものがなく、皆が同じ高さで座っていた。
「玄武族の長、玄徳咲蓮(げんとくされん)と申します。そして、娘の咲蘭と陸丞でございます」
 湖阿は二人が玄武族の長の子供だという事実に少し驚きながら、頭を下げた。
「湖阿、長に名を」
「えっ!あ、うん」
 志瑯に名前を呼ばれた驚いたが、嬉しく思っていた。名前を呼ばれるというのは、親しくなった気がするのだ。
「えっと、如月湖阿です。よろしくお願いします!」
「歳は?」
「十七です」
 前王で青龍族の王である志郎には敬語を殆ど使わなかったが、咲蓮に対しては何故か敬語になってしまう。咲蓮が目に見えて歳が上ということと、貫禄があるというのも理由だろう。
「咲蘭と同年ということになりますね」
「え!十七なの!?」
 湖阿から見て、咲蘭はとても大人びていた。落ち着きの無い湖阿とは違い、彼女には落ち着いた雰囲気がある。
「少し変わった子ですが……仲良くしてください」
「よろしくお願いします。救世主様」
 丁寧に頭を下げる咲蘭に、湖阿は自分が少し恥ずかしくなった。自分も咲蘭を見習って礼儀正しくおしとやかになれないだろうかと思ったが、すぐに無理だと判断した。
「救世主っていうのは止めてほしいかも……湖阿って呼んでね、咲蘭」
「はい、湖阿様」
 同年代の知り合いができるというのは、湖阿にとってありがたかった。同年代ならば、気兼ね無く話せる。ある程度仲良くなったらの話だが。
「そういえば……鷹宗が居ませんでしたか?」
 陸丞が言い終わって直ぐに、荒々しい足音が聞こえてきた。
「何かありましたか?」
 苦笑しながら言う陸丞に、湖阿は何とも言えなかった。怒りを伝えようとも思ったが、そんな事をしている間に鷹宗が来てしまう。
 それに、怒りの持続が出来ていない。自称、寛大な心を持った湖阿はいつまでも小さな事を怒らない性格……らしい。あくまでも、自称。
 が、鷹宗の足音が大きくなってくるにつれて何かが込み上げてくる。
「女ー!」
 鷹宗が勢いよく襖を開けた。湖阿は直ぐに立ち上がると、鷹宗を睨んだ。
「さっきはよくも……!」
「うるさい!てか、ふざけんなっ!」
 湖阿は本人を目の前にすれば、どんな状況だろうと直ぐに頭に血が上る性格なのだ。

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