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異人乃戀-コトビトノコイ-
志瑯 二
「……違う」
「え?」
「皆を私は信じている。しかし、私と皆の間には遥かに高い壁がある。私が王であるから」
 志瑯は庭園から離れると、歩き出した。その横顔は泣いているようにみえる。
「じゃあ……私と王様の壁は低いわ」
 そう湖阿が呟くと、志瑯は足を止めた。
 桜の花びらが舞い上がり、地に静かに落ちた。
「私は青龍族でもないし、この世界の民じゃ無い。だから、私から見ればあなたは私と同じ、人だもの」
 世界は違うけど。と苦笑する湖阿に志瑯は今まで感じた事の無い感情に支配された。
 眠っている時にもこの感情が志瑯の体を支配したのと同じモノだった。
 しかし、志瑯にはこの胸を締め付け、どこか安心をする感情が何なのか分からない。
「あ、そうだ!頭が青いの何?」
 湖阿が訝しげな顔をして言った。
「青……?ああ、鷹宗か」
「そう、それ!何なのあれは?」
 志瑯は何も言わず湖阿の顔を見つめ、少ししてそらした。
「似ているな」
 心外な事を言われ、湖阿は眉間に皺を寄せた。自分でも似ている気がし、否定できないのだ。
「鷹宗にも同じ事を言われた」
「……」
「鷹宗は良い奴だ」
 湖阿は志瑯にとっては最も信頼出来る部下よりも近いものなんだ。と少し安堵した。一人で今まで生きて来たわけではない。
 心を少しでも開ける相手がいれば、心に余裕が持て、心が明るくなる。
「嫌なやつだけど……良いやつなのね。私にとっては超嫌なやつだけど!」
 志瑯は微かに笑みを浮かべたが、直ぐにいつものような無表情に変えた。それを見ていた湖阿は、いつもその表情をしていればいいのに。と思ったが、敢えて言わない。
「玄武族の長に会いに行こう」
 そう言うと、志瑯は奥へ歩き出した。湖阿は一度、水仙と鬼灯を見ると、志瑯を追い掛けた。
「玄武族の長ってどんな人なの?」
「自分に厳しい人だ」
 玄武族の長は、他人に優しく自分に厳しい。仲間のためなら自分をどれだけでも追い詰められる。
 しかし、過労で倒れることも多々あり、下の者を困らせている。
「国のためにも全力で尽くしてくれた。今回も……反対を押し切り、私達を住まわせてくれたんだ」
「そうなんだ……」
 玄武族の長は志瑯を王として認め、再度王になることを望んでいる。
 実際、王となる器を持っているのは青龍族の志瑯しかいない。
 白虎族は私利私欲の為にしか働かない。白虎族に国を支配された今、裏倭は破滅へと向かっていると言っても過言ではない。
 これから国は乱れ、貧富の差は激しくなり、戦が起こる。野山は焼け、沢山の血吸った地は一切生命を芽吹かず、安らぎを与えなくなるだろう。
 志瑯はもちろん、玄武族の長も含む皆がそれを予感していた。

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