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Novel〜APH〜 
『fly』独普





『fly』



「おいっ!起きろよヴェスト!!」

「ん……なんだ」

普段なら絶対に俺の方が早起きで、いつもなら逆に俺が起こしているのだが。

今日は逆だった。

まぁ別にさほど驚く事もない。

前にもこうだった日があった、その時は日の出がとても綺麗だから見てみろなど言って早朝に起こされた。
今日は何事かと上半身を起こす。

「なにかあったのか?」

「しー!大きな声を出すなよ」

十分さっき自分が出していた俺を起こす時の声の方が大きかったと思うのだが、一応音を立てないようにした。
「見てろよ……この俺様が毎朝面倒見てきた成果が今花開くからな」

こんなにも執着をもった兄は珍しかった。

なんせ読んでいた本に、くしゃみして飽きるくらいだ。

大体の日はやる事もなくだらだらしたりぷらぷらするか、ゲームしたりだ。

「一人楽しすぎるぜ─!」
などとも言ってたりする。

(まぁ、俺が仕事で相手出来ないのも悪いのだが……)


また、体調を心配してという面も理由の一つだった。
今だからこんなにも脳天気な様子だが、まだ全快とは言えないだろう。

だから外出も制限している。

そんなわけで暇を持てあましていた兄が面倒を見てきたというのは……


蝶だった。


「い、いつの間に育ててたんだ?」

「ん?あぁ、前にな買って来たキャベツにくっついてたんだ」

お前虫とか嫌いそうだから陰でこっそりと空き箱で飼ってたんだと、嬉しそうに話す。

「知らなかっただろ!俺様を侮るなよ?」

はははといつもの高笑いをする。

まったく、静かにしろと言ったのはお前じゃないのか。

「で、羽化しそうなのか?」

「あぁ!図鑑で見たが、アゲハ蝶みたいだ!」

めんどくさがりな兄がそこまで熱心になってたとは流石に驚いた。

「お前蝶の羽化なんて見た事ないだろ?だからわざわざ起こしてやったんだ」

「まぁ、確に見た事はないな」

国として長く生きているが、実際蝶の羽化など映像でしか見た事はなかった。

「おっ!もう始まったぞ」
ただの空き箱の中にくっついた蛹はにわかに動き出した。

いい年した男が2人、昆虫観察もどうかとも思ったが誰かに見られているわけではないので、気にせず覗きこんだ。

「……おっ」

背中からパリ、パリと皹がはいる。

やがて静かに中に閉じ籠っていた蝶が出て来た。

その様子を俺は真剣にみいっていた。

まだしわくちゃの羽がゆっくりと開かれる。

産まれたてのやわらかさを感じた。

「すごいな」

不意に呟やかれ反応が遅れた。

「なんかな、こういうの見ると命って感じるんだよな」

あの高笑いはどこへ消えたのか、俺の目にはやわらかく笑う表情が映った。

「そうだな」

羽が完全に乾くまで、俺はゆったりと兄と一緒に見守った。


パタッ


乾いたのか、蝶は羽を動かし始めた。

「おい!飛んで行ってしまうぞ?……」

「いいさ!」

そういうと兄は空き箱を持ったまま庭へと駆け出した。

俺も慌てて立ち上がる。



パタタッ────。


蝶は元気よく舞い上がった。

その様は光を受け美しかった。


兄は蝶が飛んで行った方の空を見上げたままだった。
「あいつ、元気にやってくよな!!」

「あぁ…」

そういうと兄はくるりと振り返り笑った。

それは人を見下した笑いではなく、幼い頃。といっても今は何故か記憶が曖昧だが、数少ない記憶にあるよく自身に向けられた笑みだった。


「よし!じゃあ飯にするかヴェスト」


「そうだな」


そんな日常的な会話をしているだけで胸がいっぱいになっているのを感じた。

きっと普通の人間はこれが当たり前なのだろうけれど。

日々のちょっとした事が幸福に思える。

それを実感する事が出来たのかもしれない。


それに何より、俺が一番幸福なのは………


「ヴェスト!どうした?腹減ったぞー」


「今行くさ」



あなたのその顔を見る事なのかもしれない。





今日も日々を送れている事に感謝します。

神様。

そして

今も昔も俺を守ってくれているあなたに。




end

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