text 【3】 なぜなら二人が言葉を紡ぐときに見せた自分だけが知っている“癖”が、何を意味しているかを知っていたからだ。 (…どんなに怒ってても、俺の名前呼ぶ時だけ優しくなる所…、変わってない) 「ぉ…れ…っ」 二人が無意識の内に見せた優しさに、一護は涙を堪える事が出来ず、また同時に心の内に巣食う思いを隠す事が出来なくなった。 「俺っ…、惣右介さんとギンが側に居ないと…駄目で…っ」 弱音など、吐くつもりは無かった。捨てられた自分がこんな事を言っても、二人を困らせてしまうだけだと解っているから。 だけど、愛しいと想う気持ちを偽る事なんて出来なくて、そうして改めて思い知った。 こんなにも、二人を愛しているのだという事を。 「苦しいんだ…っ、惣右介さんとギンが側に居ないだけで、どうしたらいいのか解ら…っん!」 ずっと溜め込んでいた想いを吐露した瞬間、まるでそれ以上の言葉は必要ないというように塞いだのは、藍染の温かな唇だった。 その温かな、そして何よりも待ち焦がれていた温もりに、一護の瞳から溢れる涙は更に増し頬を包む藍染の手を濡らす。 それを直に感じ取った藍染はゆっくりと唇を離し、涙と不安に揺れる琥珀の瞳で見上げてくる一護に、そっと言葉を紡いだ。 「こんなに紅くなって…、そんなに寂しかったのかい?一護」 「っ…当たり前、だろ」 ポロポロと頬を伝う涙を優しく拭いながらそう問い掛ければ、期待を裏切らない答えを返す一護。その弱々しい一護の姿は普段なら絶対に見られない姿で、しかしここまで悲しみの失意を一護に抱かせる事が出来るのは、後にも先にも恐らく藍染達だけだろう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |