平凡くんの秘密の恋
別世界の人
俺に似合わない暗い空気は置いといて。
ざくざく踏み歩くぬかるみと茂る草の道。スクールバックの中に新たに紙を一枚入れて。
ここは暗くて湿気てて、すごく怖い。道と言っても整備もろくにされてないし、木々が覆って密閉されてるような感覚がする。今だけかもしれないけど、陽の光すら雲に隠れて届かない。
俺のミジンコハートはぷちっと音をたててつぶれそうだった。
こういう時は全部が怖いと感じてしまう。普段目にしているのと同じはずの木も、幹にある凹凸が妖しく見えてしまうし、風が通る音や自分の足音で背後を確認してしまう。
「っは〜。もう無理だって」
ウッチーについてきてもらえば良かった。
でも気まずかったんだよなー。抱きしめられて。悪態ばっかりつくからたまにああやって優しくされるとどうも・・・。
「ここはどこ・・・」
寮に続く道の上を歩いてることは確かだけど、そう言いたくなるよねこの状況じゃ。
・・・こんな不安な時、雄也の顔が思い浮かぶ。いや、特に、思い浮かぶ。普段から雄也のことばかり考えてるから。電話をかけて泣き縋りたくなる。今ここに飛んで来てもらうことだってできるのに。
本当はもう、びっくりどっきり作戦なんてどうでも良いんだ。
そんなことしたって雄也を困らせるだけなんだから。
ただ、確かめたかった。
俺が一人で生きてることを。思い出したかったんだ。
雄也だって、いつ居なくなるか分からない。
親が居なくなるまでこんな気持ちは知らなかった。誰かに頼って、皆と一緒に生きてる心持だった俺は、本当に周りが見えてなかったんだと思う。
「あっ!人です須藤(スドウ)さん!」
「ちょっと待っててくださいね、俺らがなんとかしますんで!」
止まって木に寄りかかっていたんだけども、急に全く道が無いところ――、つまり茂みの中から人の声がした。
迷子か?なんて軽い考えでざわめく木々を凝視していたら・・・
「おい!そこのチビ!」
「何ガンたれてんだ!文句でもあんのか?」
「ひっ!」
草木と同じくらい緑ぃ頭をした人と、炎のように赤い髪の人。その怖い顔面に、声も出なかった。緑い髪をした人は、鼻の頭に絆創膏付けてるし、リング状のピアスも、耳がちらっと見えるだけでも5、6個はくだらない。赤髪の人は、長い髪を三つ編みにしてるし、拳を作るその真ん中の指3つにごついリングをしている。あれで殴られたらちょー痛そう。
二人とも、目つきが悪いわ眉が薄いわ最悪だ。どう考えても俺が普段絡むような相手じゃない。精神的許容範囲外だ。
「おいチビ。寮はどこだ」
緑さんが言う。りょうはどこだ。
りょう・・・だれ?
「あ、あの、誠に申し訳ないのですが・・・りょうなんて人知りませ――」
だって本当に知らないんだもん。
だって、だって・・・っ
「もっぺん言ってみ?」
怖えええぇぇええぇ。
俺の顔すれすれを通った拳に息を呑む。当たらなかったことが奇跡だ。せっかく出ない声を絞り出して答えたのに、何が気に入らなかったんだろう。間近にある赤髪さんの顔は唇が当たりそうなほど近い。って、そんなことを思ってしまうのは、俺がホモだからだろうか。
「りょーう。俺らは部屋にイきてえの。分かるー?」
「っ、す、すいませ、ん」
わざと変な言い方するな!恥ずかしくて、怖がる以上に赤くなってしまった。それを見て笑う赤髪の三つ編み。
「部屋で、じゃなくて、部屋にだから」
絶対確信犯!
「まー、最近かわい子ちゃんに飽きたし、たまには当たり障りのない子でも逆に楽しいかも?」
当たり障りが無くて悪かったなあ!しかもそこを疑問形にするな!
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