平凡くんの秘密の恋
2
俺が書けない欄、それは・・・
「・・・っ、」
「何て、書きましょうか」
「悪、い」
謝らないでよ。頼むから。
泣きそうになるから。
「全然。平気です」
笑顔を作る。
比較的いつも笑顔の俺だけど、それは作る作業も努力も要らなくて、自然に溢れ出る笑顔だ。
頬の筋肉が痛い。
「親は、どう書きましょうか」
声が震えそうだった。
それでも笑顔は崩さない。
「ウッチー?」
ソファに座ったままの先生は、俺を見たまま動かない。何か考えているのかな。そう思って黙っていたら、優しい手つきで頭を撫でられた。出会ってから二回目だ。
「泣かねえのかよ」
「・・・何で泣かなきゃいけないんですか」
「は?」
あ、先生煙草持ったままだ。持ってる手で撫でてる・・・?
手首を掴んで引き離した。
「煙草持ったままで撫でないでください。焦げちゃって先生みたいにくるくるになったらどうしてくれるんですか」
今どうでもいい事かもしれない。でも話題を変えたかった。重い空気になるとどうしても、思い出して悲しい気持ちになってくるから。
離れた手はそのままテーブルの上の灰皿に乱暴に押し付けられた。
怒ってる?
そう思って顔を上げたら、真剣な表情で眉間を寄せた先生がいた。
「誤魔化すな・・・逃げられねえ事実なんだろ。向き合えよ」
「俺はちゃんと心の中で向き合ってますから。心配ご無用なんです」
こういう時だけ親身になってくれなくて良いのに。いつも通り平凡な少年Aとして接してくれたら良い。
「お前、泣かねえタイプか」
「へー。さすが先生。慣れてるんですね、こういうこと。不憫な生徒ほど可愛いですか?生憎ですが、女々しいのは嫌いなんで」
にっこり笑う。
可愛くない。こんな俺、全然可愛くない。
人間的にも、生徒としても、可愛がってもらえるはずがない。
「どんなに辛くても笑うんだろ。・・・誰かに相談でもしたか?」
また頭を撫でられた。
相談なんかしてない。出来なかった。まだ親友と呼べる友達も居ない時期で、学校も辞めなきゃいけなかったから。
「キャラじゃ、ないよ・・・」
先生のキャラじゃない。
こんな、・・・抱きしめるなんて。
この学園の学園長のところに面接に行った時を思い出す。
俺は、奨学金制度に縋ったも同然だった。
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