平凡くんの秘密の恋
笑える強さと泣く勇気
教師専用の寮は生徒専用の寮に比べ規模は小さかったけど、豪華さは変わらなかった。玄関ホールでまず甲冑を着て前足を上げた馬に跨った騎士とご対面する。
どうもはじめまして。どうか私を殺さず見逃して下さい。
心の中で挨拶をして、さきさき歩いて行く先生の後ろ姿を追った。
先生の部屋に向かう途中、教師らしき人は数名見かけたけど、俺の存在は気付かれなかった。
そんなに俺って存在感が無いのかな・・・
「入れ」
いや、一緒に歩く人の存在感が尋常じゃないからだよね。
部屋に入る途中で見た玄関先のプレートには、内田輝之と書かれていた。
一人部屋らしい。きっと独身なんだろうな・・・独身で寮暮らしなんて。すっごいお金貰ってなきゃ出来ることじゃない。将来いき遅れそうだもん。
「どこやったか・・・」
部屋の中は、生徒の寮とあんまり変わらなかったけど、隣にも和室があるみたいで、二部屋ほど合体させたくらいの大きさはありそうだった。
そっちに布団を敷いて寝てるのか、システムキッチンと繋がっているフローリングのこの部屋にベッドは見当たらず、紙とファイルが積みあがっていて全然整頓されてなかった。どうやら中心に置かれているローテーブルを中心に仕事と生活をしているらしい。
ノートパソコンがその上にあって、クッションが置かれているから間違いないと思う。
俺って名探偵。
「探すから適当に座っとけ」
部屋に着いた途端白衣を脱いで壁にあるハンガーに掛けた先生。
その下はもちろんスーツ姿だった。
「はーい」
金髪にスーツって・・・あまりよろしくないと思う。
ソファに大人しく座って見守った。
和室はふすまが開いてるから分かるけど、そっちは奇麗にしてるみたいだ。それにしてもこっちは汚い。生活感で溢れてる。先生らしいとは思うけど。
どうやら目当ての物を見つけたらしい。差し出されたそれを見ると、編入の手続きに関する書類のようだ。
「今ここで書けるだろ。書いちまえ」
数枚あるそれを書くためにソファから降りてクッションに座らせてもらった。代わりに先生がソファに身を置く。ボールペンを渡されると、さっそく取り掛かるために腕まくりをした。
早いとこ終わらせてマグロになろ。南校がどう恐ろしいのか聞きそびれたけど。
カチっ、カチっと背後で石を擦る音が聞こえる。さっきから臭うと思ってた。やっぱり喫煙者みたい。
俺もカチッと音をたてて芯を出した。
「えーっと・・・」
書く内容は住所やケイタイの電話番号やメルアド。所謂個人情報だ。すらすら書き進んでいたけど、自分では分からないところが出てしまって止まった。
「どうした」
順調だった俺が急に止まったから、心配して背後の先生が書面を覗いてきた。
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