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平凡くんの秘密の恋



「どーもー・・・」

ウッチーに呼ばれて、ただでさえ小さい背なのに縮こまって入っていった。
皆の視線が痛い。大半が好意的に見てくれている筈なのに、なんでこんなに痛いんだ。胃が痛い。今すぐ逃げたい。逃げ――

「逃げねえよな?」

「・・・は、い」

はははー。やっぱ無理よね。

教壇に立ってクラスメートの方に向き直り足を揃える。ほぼ直立。

「結城次郎・・・です」

頬が熱い。地味で目立たない俺にとって、人前に立つなんて全然慣れない事で、喋りももたつく。

「えっ、と、趣味は、音楽鑑賞、です。できるだけ、穏やかな学生生活を、送りたい、です」

自己紹介と言えばこんなものだろうか。
他に思いつかなかった。
あ、あと一つ。

「木になります」

気になりますと勘違いされそーな言い回しで言った。
ドッと湧き起こる歓声。どうやらここでは耳タコくらい言い聞かされているらしい。「木になれ」と。・・・宗教みたい。

「おーし。お前後ろな」

席に向かう途中、健太郎が手を上げたから、どうしたら良いのか迷ったけど一応、タッチしといた。


俺の席は窓側から2番目の一番後ろ。

「よろしく」

まぶしっ!

「よ、よよよろしく」

「ふっ、何だそれ。はやってんのか?」

右隣の美形さんはすごくフレンドリーで、俺は一瞬張っ倒しそうになったけど、引きつった顔で笑った。
俺さー、自己紹介で、穏やかな学生生活をって言ったよね?

美形さんは薄い唇を引き上げて笑う。余裕がある、懐の大きそうな人だなーと、第一印象はこれだ。
腕を組んで、また俺に話しかけてくる。健太郎や俺より少し低めの声。

「俺は津永真人(ツナガ マサト)。よろしくな」

左が長いアシメの前髪。サイドは耳がちょい隠れるくらい。色は鳶色くらい、かな。

「うん。よろしく」

あんまり関わりたくない俺はそれだけ返して、口を開くウッチーを見た。

「それから・・・今回の始業式は放送バージョンらしい。お前らにとっては良かったな」

クラスの端々から「よっしゃ!」やら「ちょっと残念だなー」やら聞こえる。始業式が放送バージョン?

隣の津永が教えてくれた。

「生徒会がたまに、めんどくさいからって注意事項だけ放送で言って終わりにするんだよ」

生徒会・・・ろくでも無えな。

「ま、俺は楽で良いんだが」

あ、ちなみに俺も。

「あー、あとたぶん重要な発表があると思うから・・・まあぼちぼち聞いとけ」

てきとー。
ウッチーは結ってあるのも構わずてきとーに言いながら頭を掻いた。


 ――ぴんぽんぱんぽーん。


と、その時、まるでデパートの迷子のお知らせのような音で、生徒会のお知らせが始まった。


その時流れた声に、俺は唖然とする。




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あきゅろす。
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