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平凡くんの秘密の恋



「これ、何のスパゲティ?麺の上に豚と玉葱で……」

「……あとは大根おろしを乗せて、ポン酢で食べる」

重苦しく話すミフネの様子を察知しているだろうに、次郎は態度を変えない。ミフネにはそれがわざとらしく思えた。テーブルに並べられたパスタにすっていた大根をかける。少し雑な手付きだ。

「あ、やっべ。涎が。ってかミフネ、料理のレパートリー増えた?」

「何事にも全力投球するたちでな」

「え゛っ…」

ミフネが話す半分が嘘偽りだ。次郎の頭に「全力投球」というイメージが無かったのか、言葉に詰まった後、し辛そうに頷いていた。納得しようと自分に言い聞かせているようだ。呟きが聞こえた。

「そ、そうなのか。イメージが……。でも先入観で見たら失礼だし…」

そんな次郎を尻目に捉えながら着々と用意を終えたミフネは、突っ立ったままの次郎に冷視線を送りながらダイニングテーブルの椅子に座った。次郎は居心地が悪そうにしながら向い側に座るも、すぐに明るく話しかけてくる。ミフネは自分の中で「何も言わないのだから冷たくされるのは当たり前で、不機嫌を露わにしても良いはずだ」と完結させているが、明らかに理屈が可笑しい。そもそも感情を悟られないようにしてきたのでは?と問いかけたくなる。

「今日はありがとな。作ってくれて。いただきます!」

「…ああ。いただきます」

そういえば、と。ミフネは景気良くがっつく次郎を眺めながら箸を進め、時折料理の味を褒めてくるのに答えながら思った。電話した時に聞いた次郎の沈んだ声に、何かあったと踏んだミフネは、帰ったらまず慰めてやると言ったはずだった。怒りのせいですっかり忘れていたミフネだが、次郎は求めてこない。やはり電話をした時とした後で何か状況が変わったに違いなかった。真剣な表情で話せ、話せと念力を送ってみるが次郎は食事に夢中だ。いつも通り奇麗な所作で箸を使ってスパゲティを食んだミフネは、当たり障りの無い会話で探ることにした。

「ところで、内田は何でお前を呼びだしたんだ?」

「ん?あー……授業参観について話しがあったみたいで。ミフネのところは誰か来るのか?」

「そうだな…来るらしい。さっき電話で聞いたから、急な事が無い限り間違いないだろう」

次郎は視線を彷徨わせた後で質問してきた。狼狽している。この話題には触れられたくないようだった。素直に答えれば相手も素直に返してくる。

「来るって、ご両親が?」

「いや、来るとしたら親父がだ」

「へえ…お父さんと仲良いんだ?」

「仲が良いとかそういうわけじゃねえ」

ミフネはどこまで説明したものかと一旦口を閉ざした。

「……尊敬はしてる」

それを聞いた次郎は驚きの表情を浮かべていた。驚きの中に、悔しさのような悲しさのような感情が窺え、ミフネはおや?と眉を上げる。

「どうかしたか」

「え?あ、な、何でもない!っごめん」

ミフネはなんとなく理由が分かった気がして、会話を切り上げる為に席を立った。目の前の皿を奇麗に平らげたところだったのでちょうどいい。次郎も遅れて立ち上がると、食器をさらうミフネに倣う。シンクに流れる水の音が制した。今日の次郎は随分口数が少ないと思いながら、また話題をふる。

「それで、話したいことって?」

「……うん。それ、ね…」

風呂前に良いことと言っておきながらやけに消極的だ。

「これが終わったら、さ。…ベッドに座って、話そ」

呟くように小さくなった声に耳を貸しながら、ミフネは「分かった」と答え、皿を洗う手に集中した。次郎は皿を洗い水に触れる為に堂々とジャージを捲っていた。そこからは時間が経ち、赤黒くなった鬱血の痕が見える。ミフネは皿を滑るスポンジに力を込めた。



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あきゅろす。
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