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平凡くんの秘密の恋



「や、やめてくれさい!」

くれさいって何だ俺!

「守れるほど強くて、床技も持ってるオトコから奪う。奪って、がんじがらめに縛って、この俺に縛りつけて……あぁ。ぞくぞくする」

また変なこと口走ってるし!
クレさんの胸板は、突っぱねても全然びくともしない。悲しくなって途方に暮れていたが、自分以外に誰も頼れる人がいないから、懸命に口を開いた。このままの状態が続けば、いろいろやばいと思った。

「お、俺をさ、探してい、いたの、はっ、須藤さん、なんじゃ……?」

怯えきった俺の言葉に、クレさんの恍惚と光っていた瞳が瞬時に見開かれた。

「あー……それね」

言外におもしろくないと口を尖らせて、今までのねちねちが嘘のように身体の距離が開く。そのまま俺を起き上がらせて、身を縮込める俺を宥めるように髪を梳きながらの説明が始まった。
俺としたことが、説明してもらう前にこの紐を取ってくれと言えば良かった…。紐がきつく結ばれているせいで、さっきから身体の位置を変える度に傷が刻まれていく気がする。

「もちろん、最初に探せなりうんぬん言ったのは須藤さんだ。…でも、あの人飽き性でな」

「あ、飽き性?」

「あの時確かに須藤さんはお前に惚れてるようなかんじで、すぐに探すように手を入れたんだけど、いつの間にか正気に戻って取り消してきた。やはり探さなくていい、と」

「ほ、惚れ…!?」

全く予測していなかった発言に、度肝を抜かれた。恨みで探されていると思い込んでいたもので、真逆のような理由に目を白黒させる。しかし、正気に戻ったという発言には少々失礼な匂いを感じるし、その後の言葉には不思議に思う。ではなぜ今も探していたのか。
クレさんの奇麗に浮かべられた意地の悪い顔を刮目したまま、どうとも反応できずにいると、少し間を空けて話は続いた。

「ああ、そう。あの人は自暴自棄なところがあるから…。刹那的に人を好きにはなるけど、すぐに諦めを起こして忘れるから」

それは惚れやすい、ということじゃないんだろうか。その話を聞く限り、須藤さんはとても悲しくて寂しい人かもしれない。
繊細な手付きで髪を撫でていた手が、そのまま頬を滑ってきた。

「そんな顔するな……」

苦しげに寄せられる眉。
そんな顔ってどんな顔だ。俺は産まれてこのかたずうっと平凡ですけど。とは言えなかった。自分の心情から察するに、悲しんでいると見えたかもしれない。目の前のこの人と同じ顔をしているのだろうか。

「……須藤さんは、今回ばかりはミスを犯した」

ミス、と言う。俺の頬を撫でる指先は冷たい。

「俺に、捜索打ち切りの伝達を指示したから。…今回は、はいそうですかとはいかない。須藤さんには言わずに探し続けた」

クレさんはふっと息を抜くと、苦笑交じりに頬を緩めた。

「さっきも言った通り…お前をモノにしたい。今のオトコに少しでも不満があるなら、俺のことも考えてみてほしいな」

真剣なのかそうでないのかわからない。口調はさっきより標準で、声は穏やかで。襲いたい云々のあれは、興奮で乱れていただけだったのか。しかし、だ。その言葉がどこまで真面目なものか。浮気相手として考えろってことか、セフレ?どうもこの人は快楽主義っぽい。

「守ってくれてエッチも上手いなら、不満なんかねえか」

2言目にはエロですか。

「あ、あの…っ、おことば、ですが、」

ずいぶん久しぶりに意識して口を開けば、喉が水分不足で掠れていた。

「俺が目立たないように庇ってくれてたのは…友人です」

俺はミフネの冷めた視線を思い浮かべながら、心寂しい思いに俯いた。少し離れただけで感じてしまう懐かしさが、可笑しかった。



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