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平凡くんの秘密の恋



振り向いたクレさんはぎらついた目で俺を見下ろしていた。と言うか覆いかぶさっていた。やっぱりこの人色欲魔だ。俺との会話(?)でエロいことしか言ってねえ。鼓膜を揺さぶるセクシーな声色に俺までぞくぞくしてきて身を震わせる。

「なぁにだんまり決め込んでんだよ。…もっとイイ声出してみろ。次郎…いや、健太郎?」

「なっ!あ、あんた――…っぐっぅ」

「だれに口きいてんだー。予想通り、偽名だったか。次郎に健太郎…ね」

クレさんの膝が俺の背中に食い込む。体重を掛けられて鈍痛が襲った。喘ぐように呼吸を繰り返す俺の髪を掴むと顔を上げさせた。息が触れるほど近くに整った顔はにまにま両の口端を上げている。

「お前やっぱかぁいいな。泣き顔そそる。…その目もサイコー」

痛みで滲んでいた俺の目尻に舌を這わせると、今までのクレさんの笑顔に狂気が混じっているように見えた。俺は背筋を走る悪寒が止まらず。視線を逸らせずにどうしようかと逡巡した後、挑むように目つきを鋭くした。口調を咎められたから目で抵抗するしかない。
舐められただけで嫌悪感に身震いする。嫌だ。雄也以外の人に…っ。

「…そんなに悔しがって。オトコのために、泣くのか?」

「え……?なん、で…」

「オトコがいるか分かるかって?そりゃ、普通は袋被せられて、拘束された時点で泣きわめくだろ。それほど強く見えねえし、抵抗しないのは誰かの入れ知恵か、助けられるのを見越してか。今まで捕まらなかったのもそいつに守ってもらえてたから。違う?あと、感度が良い上平凡のくせに妙な色気がある」

急に静かな声に変わり、俺の頭は均されたようにおとなしく鎮まった。冷静に物を言う横顔はとても奇麗で、また違った怖さがある。
言い当てられたことのほとんどがミフネに対することで、雄也のは最後だけってどうなんだ。
ぼんやり気の抜けた顔でクレさんの唇に目を奪われていた。薄く儚げなそれに乗せられる言葉は想像もできないほど下品なものばかりで、吃驚仰天とはこういうことか。

「ここでお前を犯しても良い……な?」

な?じゃねえ!!

「良いわけねえだろ…!」

と言うか、どっからそこに繋がったんですかコノヤロウ。
とかなんとかいう不満を言えもしないでいると急に来る浮遊感。両足を支える筋肉質な腕にがっしり横抱きにされ、そのまま2人でソファに倒れ込む。肘置きに軽く頭を打って脳が揺れた。微妙な痛さにしかめっ面で、打撲でもしていそうな後頭部を押さえる。涙で滲んだ視界に、大きな影が落ちた。早く視界をクリアにしたくて目を瞬かせる。「ああ…」と恍惚の眼差しをむけられ身が竦んだ。

「…かンわいー。イイよ…お前ちょーイイ」

な、なに、この人……。俺を猫か犬とでも思っているのか問いたくなる猫なで声と一緒に、指の裏で頬を撫でてくる。サックのような例のごつごつした指輪に脅されているみたいで一言も口をきけない。撫でられるだけでちょっと痛い。ほっぺごりごりって。

「ここまで貶したくなる…」

「っ……」

密着しすぎ声エロすぎほっぺた痛すぎ!クレさんが発する眼差しが、鼻に入る匂いでさえエロく感じる。


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