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平凡くんの秘密の恋



「……字は」

「え?普通の一般的な「結城」に「次郎」です」


――ダンッ!

俺の返答を気に入らなかったらしい不良Aが、俺の顔の近くを踏み鳴らす。手にはチェックリストらしきノートとペン。

「字はって聞いてんだろうが!!」

「ひ……っ、む、結ぶ字にお城の城に…次って書いて、えっと。郎?えっと…」

「次郎くらい分かる!」

ひぃぃっ!
こわっ、こわこわ怖い!こええよ!!チキンな平凡に怒ったってびた一文の得にもならないです!
芋虫状態のままがたぶる震える俺をそっちのけで、不良たちは会話を始めた。

「クレさん。この後ユキさんが飲み会するみたいなんっすけど聞いてます?」

「あー、そういやメール来たな。行かねえけど」

「そうそれ…って行かねえんっすか!?」

「あの人酒飲むとタチ悪くなるからイヤなの。パスパス」

「えー、残念。須藤さんは来るみたいなこと聞きましたけど」

「そうか…。じゃあお前ら、須藤さんが来たかどうかメールで知らせろ。…折を見て迎えに行く」

「わ、わっかりました」

耳に入ってくる真剣な声に、赤い人…クレさんは須藤さんのことをとても大切にしているんだなと漠然と思った。って言うかいつも緑の人と一緒じゃねえんだな。

「それで、お前らもう19時だけど」

「へ!!」

「やっべ遅れる!っつーか間に合わねえし!」

「こいつてきとうに捨ててユキさんとこ行くぞ!」

こいつと言われ、ぐいっと乱暴に引き上げられる二の腕。うつ伏せのままそこにだけ力が加わり食い込む指が乱暴でうめき声を上げた。

「いいーよ。そいつ置いて行け。ココ閉めたら俺が始末しといてやっから」

「まじっすか?助かります!」

「あざっすクレさん!」

「失礼しまっす!」

ばたばたと俺を連れてきた不良たちが走り去る。恐い人が減って嬉しいよ。嬉しいけど、平凡だって一応人なんだからさ、もうちょっと丁寧に扱ってくれ。再び床に打ち付けた胸に鈍痛が走って顔を顰める。
未成年はお酒を飲んではいけません。

俺の前に立っていたクレさんは、いつの間にか背後に移動していた。床を滑る靴音が聞こえる。そういえばここはどこの教室なのだろう。板張りだということを考慮しても、ソファはあるけれど一般教室の可能性が高い。廊下からも人の話し声がしないし。
そして遅れて聞こえてくる、不良が開け放ったらしい戸を閉める音。軽快な鍵を掛ける音。え、鍵……?

「…いいな。やっぱり俺が見込んだ通り、縄目が奇麗につく」

「ひぁっ!なっ…あぅぅ」

「お前の白い肌に血潮が浮かび上がって…たまんねえな」

感じるのは痛み。すでに血が止まりそうなほどきつく結ばれているのに、手首の縄をねじるように上に引っ張られた。やらしい声が出たのは、耳の中を弄ぶように長い舌が舐ったからだ。それに囁かれる息が荒かったから。決して痛いと無条件で感じちゃうわけではありません。名誉のために。

「……ぞくぞくする」

え、なに。解放してくれるんじゃねえの?なにちょっと興奮してんの!


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あきゅろす。
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