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平凡くんの秘密の恋
須藤派のブレーン


どっこいどっこい運ばれて、味わいたくもないドナドナ気分を味わてしまった。
頭に血が上ってくる。腹に当たる肩が痛くて吐き気をもよおしてきたちょうどその時、

「さて。須藤さんがいればいいけど」

その名前を、俺を担ぐ不良が口にする。忘れもしない、須藤という名前。ここに来て初めて出会った南校の生徒で、普段使いもしない第六感がフル回転して警告していた。須藤さん以外の2人も、今思えば不良という類で別格だったような気がする。
頭の後ろで戸がガラガラ開く音がした。

「失礼しまーす……」

間延びした声が俺の隣から聞こえる。いったいどこに運ばれて来たんだろう。そしてこれからどうなるんだろう。ばくばくと心臓が血を送る。

「あ、ちーっす。クレさん」

もう2回「ちーっす」と挨拶が続く。
男の腕が回された背に嫌な汗が滲む。猿轡を噛まされたままで息を呑んでいたら、急に身体がぐらついて身構えた。脚がぐらりと重力に従って振られたと思ったら床にぶつかり、力を入れる前に上体をそこへ放られる。

「おう、…また拾ってきたか」

縄が痛い。袋に擦れた頬が痛い。気遣う素振りも無く落とされた全身が痛い。ドスンと音を立てて転がった俺はうつぶせに横たえた。クレさん。嫌な気しかしないのは俺だけだろうか。響くようなテノール。聞き覚えがある声。あの時のことを思い出して背筋がぞっとする。軽く目眩がした。そんなところまで同じだ。
ここで暴れても意味が無いだろう。つーか、ここまで無抵抗な俺。なあ、本当にこのままでいいのか?ミフネ…。

ゆっくりと、身体の締め付けが無くなっていく。後ろ手の手首の圧迫はそのままに、視界は明るい光で包まれた。光に慣れてきた目に映るのは、ごうごうと燃え盛る炎のような赤。紅。紅い、人――…。

「………」
「………」

目が合った。お互いに停止中。思考回路もついでに。

「クレさんどうっすか?見たことあります?こいつっすか?」

「……いやー、」

板張りの床に這いつくばって、背筋の力で顔を上げている俺を見下ろす三つ編みの赤い髪の人は、長いソファを贅沢に1人で使い、優雅に足を組んでいる。背もたれに片方の腕を掛けて、いかにも俺がボスだぜと言わんばかりの態度だ。あの色気のあるセクシーな目元、女装映えしそうな細い顎。間違いない。忘れるはずもない。ここに来て初めて色んな意味で恐怖を感じた相手。
クレさんと呼ばれた紅い人は、脚を男らしく肩幅ほど開き腕を掛けるのをやめると、少々身を乗り出してじっと俺の顔を見てきた。そんなに見なくても分かるだろ。思い出すだろ?だけど一向に次の言葉が出ないまま、難しそうに眉間を寄せる。おい、おいおいまさか――…っ。


「見たことあるようなー無いような…平凡なんて皆同じに見える」


うおぉぉい!!!なんっっだそれはぁ!


「ちぇっ。ハズレかよー」

「おもんね」

面白みが無くてどこにでも居そうで記憶の端っこにも残らないような顔で悪かったなあ!…お、おおう?なんか泣けてくるんですけど。

「まあいいや。チェックリストに名前書こうぜ」

「おい、名前は?」

頭を締め付けていた猿轡を外される。赤い人の前に立ち塞がるようにして立つ不良たちに見下ろされ、おどおどと名前を言った。なんだかすんなり帰してもらえる雰囲気だ。


「結城次郎…です」



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