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平凡くんの秘密の恋



俺は廊下を歩いている。さっきとは違って足取りが重くなりながら。
自己嫌悪だ……。卑怯者の臆病者の最低ヤローが。

とぼとぼ俯いていると、制服ズボンのポケットに入れていたケイタイが鳴った。開けて確かめたら「ミフネ」と表示されている。出た。過保護が。俺の着信履歴はミフネだらけだ。トイレから出てくるのが遅いだけでもかけてくるからたまったものじゃない。

「はいはい?」

『内田と一緒にいるんだろうな』

「う、うんもちろん。まだ教員室に居るんだ」

絶対来るだろうと思っていた質問に素早く答えた。少し間があった後に納得いかないような声色で返事がある。

『……そうか。遅え。さっさと帰って来い』

「ダーリン心配しなくてもちゃんと日を跨ぐまでに帰るってば」

『なんなら寮の入口まで迎えに行くぞハニー』

「…素声でボケないでください。恐いです」

恐い。ミフネは堅そうに見えて素でボケてくるから恐い。本気かどうか分かりづらい。でも最後にハニーと付けただけで、その前の言葉は本気のような気がした。

『そう言うならさっさと帰ってこい。今日は俺の手料理だ』

とても柔らかい声で言われた。囁きに近かった。

「うん…。待っててダーリン」

『帰ってきたらすぐに慰めてやるよハニー』

最後に喉がキュッと締まって、「っありがとダーリン」一息で言い終わると終話ボタンを押した。最近ミフネが優しい。無愛想な上に堅苦しいミフネにこの表現が合っているかわからないけど。俺のことをよく気にかけてくれて、気分を察知してくれるのが上手い。同じ呼吸と言うか、まるで身体を共有しているみたいに。
ああもう、ミフネ大好きだ!…雄也の次に。いや、雄也の次は武井さんで…陸で、里利子さんで、…たぶんベスト5には入ってると思うけど。うーん…。

「お、平凡くん」

「はい。…え?」

急に目の前を人影が遮って固まった。いや、正しくは考えながら歩いていた所為でこんなに近くに人が来るまで気付かなかった。3人もいる。しかもよく見たらさっきすれ違うのを回避した不良だ。驚愕で表情が「え?」のまま動かせない。俺から見て右にいる不良Aが噴き出しながら口を開いた。

「平凡くんって呼ばれて返事するとかマジかよ!」

「こいつ連れて行きゃあ満足するんじゃねえか?」

「だなー。す巻きにして持ってくぞー」

ど、どうしよう!初の誘拐!?

いそいそと左にいる不良Cに布の猿ぐつわを噛まされた。
そこで視界が暗転する。べつに気を失ったわけじゃない。麻のような袋を頭から被せられた。腕のあたりまで覆うと口の紐でぐるぐる巻きにされる。おそらく別の紐で両足を結び、両手首も後ろに纏められたんだと思う。チクチクが擦れて痛い。お気づきかもしれないが俺はまったくの無抵抗だ。心臓はばくばくしているものの、ミフネに教えられた通りおとなしく担がれる。こういう時は冷静に考えて、まず誰かに連絡することを優先しろと。下手に抵抗すれば相手を激昂させてしまうことになる可能性もあると。
待ってくれ。連絡しようにも手首縛られちゃってんですけど!!冷静に考えすぎてそこまで行き着くのに時間かかった!

「こいつ見覚え無えし、ちょっとした手柄になるよな!」

「そうか?どっかで見たような…」

「平凡なんて見分けつかねえよー」


平凡で悪かったな!!
って言うか助けてぇぇぇぇ!

「んんー!!」

身をよじって足を魚のように動かしてばたばた暴れたんだけど、まったく無意味とばかりに担がれる。ほとんど抵抗なんてなにもできないまま、運ばれてしまった。


……拝啓、ダーリン。本物でもどっちでも良いから、助けて。たぶん平凡だから貞操は大丈夫だと思うけどさ。殴られてこれ以上顔がひどくなったら目も当てられないです。もしそうなったら見捨てないでやってください。敬具。



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あきゅろす。
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