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平凡くんの秘密の恋
1人になると災難ばかり



「い、やだっ。やめ……っ!」

「……」


なんでこんなことに…?


あの後ウッチーが職員会議に呼ばれ、1人で帰れると言い張った俺は久しぶりの1人にるんるん弾みながら寮に向かっていた。
ところが廊下の向こうから派手な面々が向かってくる。髪がいろんな色で服装がだらしないところを見ると明らかに不良だ。俺がいることに気付いていなさそうだったけど、平凡の小心者は不良集団とすれ違うだけで嫌だった。だから急いで近くの空き教室に逃げ込んだんだ。…と、ここまではよかった。
不良たちが通り過ぎるのをやり過ごそうとしていたのだが、そこで急に教室の扉が開いたのだ。いつでも隠れられるように教卓付近にいた俺は、咄嗟に身を屈めて机の下に隠れる。

「さっさと入ってくださいよォー」

「っ、痛い。…やめっ、やめてっ!」

「わーかりました。離しますよ」

教室の後ろの方から何人かの足音が入ってきた。1人可愛い声と、他はまあなんと言うか普通の男の声。そんな切羽詰った会話でもないから強姦とかじゃないんだろうとは思うが、もしかしたらってこともあるかもしれない。俺は緊張で唾を飲んだ。可愛い声は泣いているかもしれない。途切れそうに震えている。

「っ…もう、嫌、だ」

「嫌だって言われてもねえ。今日、ちょっと喋りすぎたんじゃねえんすか?」

「嫉妬するわー」

「そ、んな…っ、ただ、挨拶、しただけ…っ!」

「って言っても、俺らは納得なんてできねえんだ…よ!」

ガンッ!と机が蹴飛ばされたような音がした。こっちまですくみ上がる。きっと迫られている子はもっと恐いだろう。だからって今出ていったら巻き込まれるし、お前なんで隠れてたんだ覗き見か?って思われるし。喧嘩もできないし運動神経も良くないから…。
おれ…言い訳ばっかりでかっこ悪。

「いいか、次ひと言でも口きいてみろ……」

「アイツぼこって埋めてやるからよォ」

最後にもう一度鋭い音を響かせて、退出したらしい。足音が遠ざかっていく。可愛い子(想像上)はどうしたんだろう。一緒に出て行ったのか。そう思ってすぐに顔を出せなかったが、微かに聞こえる声にドッと後悔の念が押し寄せてきた。

「っ…ぅっ。ヒッ…クっ」

泣いてる…。
俺に気付いていないから、誰も居ないと思ってるはずなのに声を堪えて。
どうしよう。出て行って慰めるか。でも助けなかったことを知られたくはない。卑怯者だと言われるだろうか。
それでも、ここで居なくなるまで待つよりも、どうしてあんなことを言われたのか聞いたほうが良いような気がした。放っておいていいことなのか悪いことなのか今の俺では判断がつかないけど、でも。もし自分がその子の立場なら。意を決して机の影から飛び出したのだが、

「あ、あれ……?」

ごちゃごちゃ悩んだ所為か既に時は遅く。夕日が差し込む暗い教室には誰も居ない。
俺は急に力が入らなくなった足で教壇に座り込んでしまった。
俺の臆病者ぉ…。



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