平凡くんの秘密の恋
いつもと違う
いつもと違うと思ったのは、放課後だった。
「ミフネ、ちょっと」
呼びかけたのは津永だった。いつも津永と健太郎、俺とミフネは帰るタイミングが合えば一緒に帰るようにしている。合わなければ2人ずつ。津永が部活に行く時は3人で。ミフネのためにと思って最近は3人で帰ることが多かった。その日も健太郎の帰り支度に間に合わせようと、わたわたしながら鞄に教科書を詰め込んでいた俺は、ミフネが津永に耳を寄せる背中をぼんやり眺めた。こうして見ると、2人とも背が高い。津永の方がちょっと高いから、視線で周囲を窺っている。言い終えた津永から離れると、「わかった」と、聞こえる音量で口にしたミフネが戻ってきた。
「聞いていい?」
興味津津で身を乗り出して聞く俺に、ミフネは苦い顔で、
「・・・・・・今日は俺も津永も、お前達と一緒に帰ってやれん」
と口にした。津永が部活で一緒に帰れないことは頻繁にあるけど、ミフネが一緒に帰れないなんて初めてだった。何事かと聞く前に先手を取られる。
「健太郎は、お前が護れ」
その言葉は、ズシンと俺の中で重い音をたてた。
恐怖、責任、緊張、不安、使命感。いろんなことをぐるぐる考えて、返事もできずに黙り込む。そんな俺に、ミフネは彼の中でも少し柔らかい色の声を落とす。
「そう心配するな。常に狙われているわけじゃねえんだ。それに、2人になったり人気の無い所に行かなければ、相手もそう近付いてこれないだろう」
俺は、ミフネは無敵だと思っている。
皆に恐れられて、傍に居てくれるだけで牽制になるミフネは、常に堂々としているし、取り乱すことがまず無い。無敵なミフネの言葉は、無敵だった。
「わかった。絶対健太郎を無事に送り届けるから期待してよ」
「期待、か・・・・・。まあ、気張れよ」
てっきり馬鹿かとか言われると思っていたのに。ちょっと拍子抜けしてしまった。
「いくぞミフネ。次郎、健太郎と気いつけて帰ってくれ」
うおう。俺って頼られてるー。
健太郎とこそこそしゃべっていた津永が俺たちのところに来て、それだけ言ってミフネを連れて行ってしまった。ミフネも俺に「任せたぞ」と目配せしてくる。
なんか使命感湧いちゃう。
・・・・・・健太郎こそ姫だよな。
「帰ろっか」
「おう。さっさと帰って部屋に閉じこもんなきゃな」
「・・・・・そこまでしなくていいんじゃね?」
「ばっか次郎!そんな無防備で、襲われても知らねえんだからな!」
だって閉じ籠っちゃったら、誰がコンビニに夕飯買いに行ってくれるんだよ。
「にしても、ミフネの用事って何なんだろうなー」
「そ、そうだな・・・・・・」
あはは、嘘が苦手だよな、健太郎って。
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