縞色猫×白色兎
銀の鈴
たまたま城での仕事がなかった日、白兎は何となく買い物に出かけてみた。別に欲しいものはなかったが、何かめぼしいものはないかと店の中を覗いていた。
「・・・あ」
何もないなと思い、店を出ようと踵を返す途中で一つの商品に目が止まってそれを手にとってみた。
「いいでしょう、それ」
突然の声に驚いて振り向くと、直ぐ後ろに店主がにこやかな表情で立っていた。
「つけても痒くならない特別な仕様なんですよ」
店主は白兎の手に持っている商品を指差して言う。その指につれられて白兎の視線はまた商品に戻った。
銀色に輝く装飾には白兎の顔が移っていた。
「プレゼントか何かで?」
「だ、誰があんな奴に!あっ・・・すみません」
プレゼントという単語と、何時も何時もくだらないちょっかいばかりを出してきては笑うあの猫の事を考えていた自分に気づいて白兎は嫌になった。
白兎は軽く頭を振って商品を元に戻そうとすると。
「それ、一点物ですよ。私の知り合いの職人がお城で貰った銀で作った特別製らしいので」
店主の“一点物”“特別製”という言葉に白兎はまたその商品を見つめなおす。
確かに女王の所の銀で、自分が持っている懐中時計と同じ出触りがすると白兎は商品に触れながら思った。
「これ、下さい」
口に出してから白兎は何を言ってるんだと思った。こんな物を買ってアイツに渡すつもりなのか、それに渡したとしても喜んだりしないだろう。そう考えた白兎は自分用にすればいいと購入することにした。
「名前、刻みましょうか?」
「え・・・?」
「名前じゃなくて文字でも構いませんが、勿論そのままでも」
商品を見つめながら少し考えて白兎は口を開いた。
「じゃあ・・・」
白兎は購入したものを上着のポケットに入れ、店先まで自分を見送ってくれた店主を後にして店を出て行った。
家に帰ろうと道を歩いていると、前方に何時もチェシャ猫が現れる大きな木が目に入って思わず足を止めたが変えるには底を通るしかなくて直ぐに歩き出した。
案の定、木の真下を通る時にあの笑い声が上から降ってきた。
「キシシシシ、やあ、白い兎君」
声だけだと思っていたら今日はチェシャ猫そのものも上から降ってきて予想もしていなかった事に白兎は押し倒されてしまった。
「重いだろ!早くどけ」
「おや、これはなんだい?」
白兎を無視し、チェシャ猫が不思議そうに拾い上げたのは白兎が押し倒された拍子にポケットから落ちた包装紙に包まれた商品だった。
「あ・・・それは!」
白兎に承諾を得る事もなくチェシャ猫は勝手に包装紙を開け始め、当然白兎は阻止しようとするが押し倒されたままの状態のせいで無駄な抵抗に終わった。
包装紙に包まれていたのはついさっき白兎が店で購入してきたもので、それをみたチェシャ猫はニンマリと微笑んだ。
「キシシシシ、これは俺に?」
「ふざけるな!自分用だ」
「兎が鈴の付いた首輪なんてつけるのかい?」
チリン、と鈴の音を鳴らしてチェシャ猫は白兎の目の前に突き出した。
顔を紅くした白兎は取り返そうとするが、それより早くチェシャ猫は高く持ち上げてしまう。
「キシシシシ、自分用・・・ね」
意味ありげにチェシャ猫は微笑むと指先で鈴を回し、あるところで止めるとまた白兎の目の前に突き出した。
「白い兎君、自分用ならなんでここに“Cheshire”って文字が刻まれているんだい?」
「・・・」
「俺の名前だよね?」
「うるさいな、要らないなら返せよ!」
白兎は半ば自棄になったように顔を背けていうとまた頭上でチリン、と鈴の音が鳴った。
「似合うかい?」
チェシャ猫の言葉に顔を元に戻すと、何時もの生意気な笑顔ではなくて本当に嬉しそうな笑顔をしているチェシャ猫がいた。
その首には勿論銀の鈴が付いた首輪をつけて。
「キシシシシ、首輪とは君も独占欲が強いねぇ」
「変な勘違いをするな、馬鹿!」
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