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首無しライダー
愛すべき(帝→静→杏→正)
(静雄視点)



黄色が一つに
黒が二つ

街中でよく見かける三人の姿。
見つけてしまうとその姿を目で追ってしまうのは気のせいだ。
そう…気のせい

「杏里はエロ可愛い!!!」

黄色の奴がそう叫ぶ。
アイツの名前は知らない。
けれどずっと前からこの町をウロウロしていた奴だって事は知ってる。

「正臣!!!エロは余計だよ」

黒い少年の方が頬を赤く染めて抗議する。
あっちは知っている。竜ヶ峰帝人。セルティの紹介で出会った。
ダラーズの奴だ。

「ふーん。じゃあ。可愛いとは思ってんだな」

「なっ!!!!」

そんな二人が騒いでいる半歩後ろに歩いている黒髪の少女。
園原杏里という名前だとセルティから聞いた。
大人しそうだが、どこか他人を排除するような空気を持った独特な少女。
彼女は楽しそうに小さくクスリと笑う。

嗚呼
可愛い

自然と心に浮かんだ言葉。

「は?」

一瞬、自分でも理解できなかった。
今、俺は何を感じた?

「おーい静雄。何してんだ」

「あ、はい!!!」

トムさんからの声に仕事中だったと我に返り、三人から目を外した。

そんな普段と殆ど変わらない日常。




それが崩壊するのもあっという間だった。




『そういえば知ってるか』

セルティから突きつけられたPDA。

「何をだ」

『杏里ちゃんが恋をしたらしい』

どことなく楽しそうなセルティ。

「恋って」

なんで俺にそんな話を持ちかけるんだ。
そんな甘ったるい話なら新羅にでもしろ。そう思っても拒絶できないのは何故だろうか。

『そう恋だ。お相手はいつも一緒にいる奴で紀田っていう子でな』

「紀田…あの黄色い奴か」

『なんだ知っているのか』

少し驚いたとでも言いたげにセルティの肩が上がる。

「知ってるも何もいつも連んでんじゃねーか」

『まぁあの三人は何故か目立つからな』

確かに目立つ。
全然個性が違う三人組というのは池袋ではなかなか見ない。
この町は同じ種類の人間が連みがち。
決して、あの少女を見ている訳では…

『それでだな。私は杏里ちゃんの恋を応援しようと思ってな。だがどう応援していいのか分からない』

「そんなん新羅に」

『アイツはダメだ!!!!マトモなことを言いやしない』

「だから俺ってのもオカシクねぇか」

『む…確かに』

「良くわかんねーけど頑張れよ」

ズキン
と心が痛む。

何に?

分からない

ただ、あの少女が黄色を好きだという言葉にイライラする。

『随分と投げやりだな』

「投げやりも何も関係ねーだろ」

ズキン

また心が痛む。


セルティが去ってからもズキズキと心が痛む。


「なんで…」

こんなに苦しいんだ。






それから
町の中ですれ違うあの三人を見る度に胸が痛んだ。
少女が笑う姿は相変わらず可愛らしくて
けれど、その笑顔を黄色の奴に向ける度にギシリギシリと心臓が軋む。
竜ヶ峰に笑顔を向ける分には何も感じないってのに…



雑居ビルの屋上で煙草をくわえながら少女の笑顔を思い出す。

それだけで幸せな気分になれるというのに
黄色い奴の顔をちらつく度に不愉快になる

「そろそろ分かれって」

信じたくなかった。
俺の好みは年上だし、まさかあんな子供に惚れるなんて。

でも、この痛みの原因はそれしか思い付かなかった。
あの初めての恋と同じ痛み。
ふと脳裏を掠めるパン屋の人。

「くそ」

次に思い浮かべるのは破壊され尽くしたパン屋。

「あんな事してぇ訳じゃないんだ」

ただ
俺を見て欲しい。
それだけでいいんだ。

あの笑顔を俺にも向けて欲しい。


「アイツさえ居なけりゃ」

そう。
黄色の奴さえ居なければ…

「そうすれば俺を見てくれるかも知れねぇ」
俺にも笑顔を浮かべてくれるのかもしれない

「アイツが居なくなれば…」

頭に浮かんだ最低な願望に背筋が凍る。
なんて事を考えてんだ。

あの黄色が居なくなったって彼女が俺を見てくれる訳がない。
それでも、片思いの相手が居ると居ないのとでは圧倒的な差がある。

黄色いのに恋人が居ればいい
そうやって彼女が酷い失恋をすれば…
いや、そんなん可哀想じゃないか
ただ
アイツが消えちまえば


「平和島さんってそんな事考えてるんですか?」

唐突に掛けられた声に慌てて振り返れば、少女と共にいる少年。

「いや…違……」

俺より遙かに小さい竜ヶ峰は「ふぅん」と小さな声を上げる。
そもそも何でコイツが此処に居るのか。それさえも分からない。
どこまで聞かれたのだろうか。

「たまたま平和島さんが凄い顔してこのビルに入っていくのを見かけたものですから」

静かな青い目に見つめられ、心臓を鷲掴みにされた様な恐怖を覚える。

「殺したいのってやっぱり臨也さんの事ですか?」

臨也
その名を聞く度に殺意が浮く。けれど、今はそれが何よりも助かった。

「ああ。あの野郎。来んなって言ってんのに来やがる。おまえもアイツには関わんなよ」

竜ヶ峰の後に続けて必死に臨也への恨み事を吐き捨てる。
それをやけに冷えた目で見ていた竜ヶ峰は柔らかく笑う。
この場には似つかわしくない笑顔。

「そんなに邪魔ですか?池袋から消えて欲しいですか?死んで欲しいですか?」

「ああ、アイツさぇ居なけりゃ」

「分かりました」

竜ヶ峰は無邪気に笑って、「正臣が居なければいいんですね」などと言い出す。

「はぁっ!!?」

唐突な言葉に意味すら分からずに間抜けな声だけが上がる。

「何言ってんだ。だってお前、アイツと親友なんだろ」

「そうですよ」

竜ヶ峰はあっさりと頷く。

「でも正臣よりも平和島さんの方が気に入ってしまったんです」

だから別に正臣なんてどうでもいい。
そう続ける竜ヶ峰に完全に気圧され、ただ棒立ちになるしか出来なかった。

「気に入った人の望みは叶えたいって思うんです」

「やめっ」

竜ヶ峰は本気だ。
そう理解した俺が制止の声を上げようとしても竜ヶ峰は笑うだけ。

「僕が勝手にする事ですから気にしないで下さい。園原さんと仲良くなれるといいですね」

そう言って何もできない俺を放置して竜ヶ峰は屋上から消えていった。

それから数日後。
紀田正臣が腕を吊って歩いている姿を見かけ、俺はただ震えるしかできなかった。

――――――――――――――――
世にも奇妙な一方通行
そして帝人様はヤンデレです

もちろん続きます
楽しいっす(笑)

[2010/6/26.Up]

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あきゅろす。
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