企画
彼の猛攻(カイバレ)
※【彼の決意】【彼の行動】の続きです
【彼の猛攻】
毎晩毎晩バレットの頭を支えている枕を抱きしめ、その香りを嗅いでいたカイルが我に返ったのはもう日が高く昇る頃。
「バレットさん!!!!」
思い出したかの様にバレットの部屋を飛び出したカイルは足早に階段を降り
「あ…」
足を止めた。
台所にはバレットの父親であるブライが
恐らくクリスマスの準備なのだろう。ことことと音を立てるシチュー鍋をかき混ぜていた。
美味しそうなビーフシチュー。
「おや、カイル君」
階段を駆け下りる音でカイルの存在に気がついたのかブライは鍋をかき混ぜながら、顔だけをカイルに向けた。
「バレットさんを起こしに行ったら僕が寝てしまいました。ミイラ取りがミイラになるみたいな感じですよね」
照れた様に笑うカイルにブライは穏やかな笑顔を見せる。
まるで父親の様に
過去の記憶のないカイルにも"父親"を感じさせる笑顔。
「バレットがいつもすまないね」
「いえ、僕がいっつも迷惑かけちゃってるんです」
「そうなのかい?私にはそうは見えないが」
笑顔から一転、不安そうに表情を曇らせるブライは本当に息子を愛しているのだ。ただ本人にそれをどう伝えていいのか分からず、ズルズルと年月だけが経ってしまった。
「そんな事ないですよ。それはそうと、ビーフシチューですか?」
「ああ、妻が…バレットの母親がクリスマスにいつも作っていた物なんだ」
やっぱり不器用だ。
そう思いながらカイルはブライが幸せそうに微笑みながら鍋を見つめている姿を見る。
「いつもバレットには食べてもらえないんだが…それになかなか妻の味にはならなくてね」
家族の絆を再構築しよう。
言葉で伝えられない愛情を料理で伝えよう。
不器用なブライらしい愛情表現。
なんでもかんでも直球勝負なカイルには想像も付かない回りくどさだった。
「いつか…」
カイルは口を開き、何かを言い掛けるがすぐに口を噤んでしまう。
「……」
いつか食べてくれますよ。
そう伝えようとしたのだが、それが無意味な言葉だと理解していた。
だから
「バレットさんにはもう伝わっていますよ」
いつか食べる。
よりも遙かに強い意味の言葉を紡いだ。
「…」
ブライは一瞬キョトンとした顔をしたがすぐに
「ありがとう」
本当に嬉しそうにそう言った。
バレット父子の家から飛び出したカイルはいつもの様にバレットが居るであろう場所へと向かっていった。
毎日のストーキングで彼の居場所なんて手に取る様に分かってしまう。
セレッソ広場。
そしてセレッソの木から僅かに離れた場所。
少し離れた所からセレッソの樹を見る事が大好きだとカイルは既にチェック済み。
石畳を蹴って広場へと向かえば
今は花も葉もない。ただの枝だけだと言うのにセレッソの樹は優美な姿を見せていた。
そして、やはりバレットの姿も
「バレットさーん」
手をぶんぶんと振りながら広場へと続く階段を駆け上がれば、露骨に面倒そうな顔をしたバレットの姿が。
「また、お前か」
「バレットさんったら酷いですよ!!!置いていくなんて!!!一緒に釣りに行くって約束したじゃないですか」
「してないだろ」
一刀両断。
バレットの一言にカイルは言葉に詰まってしまう。
そもそも今朝もここで話が終わってしまったのだ。
次に何を話したらいいのか、といったプランもないままにカイルは口を開いた。
「今日、クリスマスイブですよね」
「…」
途端にバレットが跋の悪そうな顔をする。
ブライが息子と共にクリスマスを過ごしたいと願っているのを理解しながらも無視している現状が決まり悪いのだろう。
「そ…それがなんだって言うんだ。興味ないな」
フン。とそっぽを向いてしまうバレットは父親を気にしている事がバレバレな態度を取っているとは全く気がついていない。
ただ虚勢を張るのみ。
そして、虚勢を張れば張るほどに罪悪感が増しているのもバレットを見続けていたカイルにはお見通しだった。
「僕、一人のイブは嫌です!!!」
だから
カイルはバレットに逃げ道を作った。
"カイルに誘われて仕方なく一緒に夕飯を食べた。だから家族で食事はしない"
という逃げ道を。
カイルの言葉を聞いた途端、バレットの表情が固まる。
元々無愛想で無表情なバレットではあるが、今はぎこちない形で凍り付いたかの様。
「僕、料理とか巧いですからご馳走しますね」
カイルがニコニコと笑顔で続けると硬直から抜け出したバレットは小さく溜息を吐いた。
「親父に何か言われたのか」
ああ…なんでこの人はこういう事だけは敏いんだろう。
自分の言葉がバレットへの逃げ道の一つだとバレてしまった事に渋面を作った。
もっと単純な人だったら自宅に連れ込んで二人きりでパーティーが出来たと言うのに。
邪すぎる事を思いながら、カイルは首を左右に振った。
「いえ、何も…ただ、バレットさんと一緒にいたくて」
思わず口をついた本心。
それを耳にしたバレットが頬を染め、嬉しそうにほほえむ
なんて事は全くなく、口をへの字に曲げ、思いっきり嫌そうな顔をした。
「バレットさぁん。どうせ一人で過ごすなら僕と一緒にぃ」
「ウザイ」
心の底からバレットの拒絶にカイルは曖昧な笑顔を零した。
それは拒絶されたが故の悲しみにも、自分の思い通りに事が進んだが故の喜びが入り混じった笑顔。
「おまえみたいな暑苦しい奴に付き纏われる位なら帰る」
そう吐き捨て家路に付くバレットの後ろ姿をカイルは何も言わずに見送る。
「……………悪かったな」
広場を出て暫く経ってからバレットが足を止め、振り返りもせずに呟いた言葉にカイルの顔は真っ赤に染まった。
「…………で、何でお前が家に居るんだよ」
帰宅したバレットの視界には食卓につく父親とカイルの姿。
「バレットさん遅いじゃないですかー」
居るのが当然。みたいな顔をしてビーフシチューを食べているカイルにバレットはガクリと肩を落とした。
【あとがき】
クリスマス小説の筈なのに
もう新年すぎたー/(^o^)\
色々スンマソン
無理やり纏めてスンマソンm(_ _)m
[2010/1/3 Up]
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