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企画
顔面クラッシャー(臨帝)
家に帰った帝人の視界の中には謎の塊が一つ。
擦り切れた畳の上でうずくまるソレは帝人にとって確かに見慣れた存在で、それなのに異様なまでに理解を拒絶していた。


今更不法侵入を咎めたりはしない。
何度文句を言ったところで、ソレが聞く耳を持つ訳がないと帝人は学習していたから

だから、いつものように「また来たんですか。情報屋って暇なんですね」とイヤミの一つでもぶつけてやろうと思っていたのに、帝人はそんな言葉さえも紡ぐ事ができなかった。

なぜなら、目の前にいる不法侵入常習者である折原臨也は常ならぬ様子だったのだ。
いつものように黒いファー付きコートを羽織った彼は何故か水泳用のゴーグルをかけ、口元には真っ白なマスク。
あまりにも違和感。異常。非日常。


「……花粉症ですか?」

やっと絞り出した一言はあまりにも陳腐で、平凡。この時期の挨拶に他ならない。

けれど臨也にとっては違ったらしい。
帝人の言葉を聞くやいなや立ち上がり、胸を張る。

「花粉症?それが一体全体何だって言うのかな。たかだか雄しべの葯の中に入っている単細胞な物体にどうして人間が踊らされ…へくちっ」

朗々と語る臨也は小さくくしゃみをし、ズズっと鼻を啜った。

随分と可愛らしいくしゃみが皮切りになったらしく、クシャンクシャンとくしゃみを連発し始めている。


「くしゃみ出てますし、目も赤いですって」

帝人がそう指摘すると間髪入れずに

「この俺が?そんな訳ないって。ははっ帝人君ったら冗談が好きだねぇ。ちっぽけな単細胞の物体如きに俺がどうにかなるなんて本気で思ヘブシっ…」

「どこからどう見ても、花粉症ですよね」

花粉症である事を認めたがらない臨也に呆れ気味に最後通牒を突きつけると観念したのか臨也はガクリと肩を落とした。

「……そうなんだよ」

ズビーっと鼻をかむ臨也。
人前で鼻をかむなど、スマートで格好つけ気味の臨也らしからぬ行動ではあるが、最早そんな事に気を配れない位に重症らしい。

花粉症用の柔らかい高級ティッシュを使っているというのによくよく見れば臨也の鼻の皮はめくれていたりする。

「無計画に杉ばかり植えるからこんな事になるんだ」

ぶつぶつと文句を言う臨也。

普段らしからぬ臨也を見るのは興味深かったけれど、グチるばかりの野郎を見ていて楽しいのは最初の五分だけ。
帝人は完全に飽きていた。

それに全く可哀想にも見えない。
最低最悪な臨也が花粉症で弱っているのはむしろザマーミロといった気分だ。

「近くでくしゃみされ続けるのもウザったいので帰ってください」

「花粉症で弱っている俺に花粉塗れな外を歩けだなんて言うのっ!!!?帝人君ったら鬼畜!!!!」

「そもそも新宿から此処まで勝手に来ただけじゃないですか。キモいストーカー行為を止めるだけで体調良くなると思いますよ」

うんざりしながら答えても臨也は納得しない。

「だって帝人君不足で死んじゃうんだもん」

「だもん。とか気持ち悪いです」

「ははっ。そんな可愛くない事を言っても俺の事心配してるんだろ?もう帝人君ったら典型的ツンデレだよね」

「はいはい。なんでもいいですから」

臨也の根拠不明のポジティブシンキングを軽く流した帝人は帰りがけに配っていたポケットティッシュを臨也に投げつけ、玄関を開けた。

「それあげますから帰ってください」

「ちょっ!!??帝人君っ!!!!危険な風が入ってきて…」

「さっさと帰れ」

ニコリ。と可愛らしい笑顔を浮かべて帝人が促しても臨也は帰ろうとしない。

「………」

「………」

早く出て行け。といった願いを込めた帝人の視線と
ここに引きこもる。といった我が侭がこもった臨也の視線がしばし絡み

タラリ

臨也の鼻から透明の滴が顔を出す。

あの折原臨也が鼻を垂らした。
なんとも言えない気分になりながら帝人は先ほど投げたティッシュを一枚取り出し、臨也の鼻を拭いてやる。

流石にいたたまれない気分で、僅かな哀れみが心に浮かぶ。

「帝人君…」

いきなり鼻を拭われた臨也も帝人の行動を予想だにしていなかったのだろう。目を丸くする。

「看病してくれたりする?」

「まさか」

帝人は二枚目のティッシュを取り出し、小さな塊を作った。

「でも鼻水垂らした臨也さんって思っていたよりダサいので」

作った塊を臨也の鼻の穴に無理やり詰め込み、帝人は満足気に笑う。

「これで垂れないですよ」

小さいと言っても臨也の鼻の穴よりかは大きなティッシュの塊を無理に詰め込まれた臨也の鼻はギチギチに広がり、秀麗な顔立ちは完膚無きまでに破壊された。

「目とかも痒いですよね。洗って上げましょうか?」

台所から洗剤を持ってきた帝人は悪意たっぷりに笑い、この気に乗じて臨也をいたぶろうとしているかの如く。

「い…いや…」

さすがのポジティブ臨也も身の危険を感じたらしく青ざめながら後ずさる。

「どうしたんですか?早くゴーグル取って下さい」

「ごめんなさい!!!!」

臨也は本当に珍しい事に謝り、脱兎の如く逃げ出した。
鼻の穴にティッシュを詰めたまま。

――――――――――――――――――
臨也を可哀想にしようとしたら
まさに誰?な感じになってしまったです

なんだこれ(-_-;)

[2011/4/23.Up]

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