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企画
除夜の鐘を聞こう!!!(門帝+正+ワゴン)
神社に真夜中にも関わらず人がごった返すのは一年を通じてもこの日だけかもしれない。
黒山の人集りと言っても何の問題もない人の流れの中、正臣は上手い具合にスルスルと前に進んでゆく。

「ほらっ帝人!!!!早くしろよなー」

「ちょっ待ってよ正臣!!!!」

後ろを振り返って人につっかえまくる帝人に声をかける余裕まで見せる正臣。

「早くしないと鐘突けないって!!!!」

「それは正臣がっ」

早く早くと急かす正臣に帝人は文句を叫ぶ。
もともと最初はもっと早くに神社に着いて除夜の鐘を突く列に並ぶ予定だったのだ。
それがこんな込み合う時間まで遅れたのは正臣がナンパをし始めてしまったから。

「仕方ないだろ!!!綺麗なお姉さんに声掛けなきゃ男が廃るってもんだ」

「…正臣の煩悩は鐘突いても無くならないよ」

さり気なく毒を吐いた帝人の声は正臣には届かなかったらしい。
「先行ってるから早くしろよ」とか何とか叫んだ正臣はさっさと前を行ってしまう。

「ええっ!!?」

誘っておいてあまりにも無責任な正臣の行動に驚きの声を上げた帝人だったが、テンション上がり過ぎな正臣についていくのにはホトホト疲れてしまっていたので、これ幸いと神社の境内に向かう列から抜け出てしまう。


「はぁ」

人の山に押しつぶされる圧迫感から解放された帝人は小さくため息を吐き、新鮮な空気を吸い込む。
さっきまでは感じなかった身を切るような寒さに小さく体を震わせ、道端の自販機に駆け寄った。

暖かい飲み物でも買って正臣が戻ってくるのを待とう。
そう思った帝人だったが、自販機の傍に予期せぬ人物を発見し、目を丸くした。

「門田さん?」

「ん?ああ、竜ヶ峰か。こんなトコで会うのも奇遇だな」

自販機に寄りかかり、ホットコーヒーを飲んでいた門田も意外そうに帝人を見る。

「正臣を誘われて来たんですけど」

「なら俺と同じだな。狩沢たちに誘われたんだが、はぐれちまったみたいで此処で待ってるんだ」

自主的にはぐれた自分とは少し違うかもしれない。そう思ったものの帝人は仲間を発見した事に少なからず安心していた。こんな寒い中一人でいるのは余りにも寂しい奴みたいだ。

「じゃあ一緒に待ってもいいですか?」

「ああ、むしろそうしろ。人が多いとは言えこんな夜中だ。一人でうろつくのは危ない」

「危ないって…」

女性なら兎も角、男子高校生には無用な心配をされた帝人はほんの少し面食らったけれど、「ありがとうございます」と感謝を伝え、温かい飲み物を買おうと鞄に手を延ばした。


けれど

「何がいい?」

「え?」

先に硬貨を入れていた門田にそんな事を言われてしまう。

「あのっでも」

奢って貰うほど親しくはなかったと思っている帝人にとって予想外すぎる言葉だった。断ろうとしても巧い台詞が思いつかず、まごついていると

「気にすんな。こう見えても社会人だから」

そんな事を笑顔で言われてしまう。

「じゃあ…ココアでお願いします」

断るのも逆に失礼かもしれないと思い直した帝人は素直に希望の品を口にした。

「ほら」

「ありがとうございます」

渡された缶は温かいというよりも、むしろ熱い。指先がジンジンする熱さだ。
二回目の感謝を伝えた帝人はココアを飲まずに手の中で転がしたり、頬に当てたり、暖を取ることに専念した。
そんな微笑ましい動きをする帝人に苦笑しながらも門田はぼんやりと人の波に目をやった。
年越しライブに行っている渡草はともかく。巫女がどうしたこうした。と叫びながら突き進んでいった狩沢と遊馬崎は今頃何をしているんだろうか。なんて思っても答えが返ってくるわけでもなく。
彼は完全に暇を持て余していたのだ。

連れとはぐれた仲間である帝人とは世代のギャップがあるせいか、どうにも会話の糸口が掴めない。一緒にいろと言ったもののどうしていいのか分からない。
何の気なしに帝人に視線を移した門田は幸せそうにココアの缶を握り締める帝人に頬を緩めた。
自分が買い与えた物で嬉しそうな顔をされるのは何ともいえずいい気分がする。

「門田さん?」

自分に向けられる視線に気付いた帝人も人の波から門田へと視線を移した。
身長差のせいで自然と上目遣いになってしまうのだが、寒そうに背中を丸め、ココアの缶をしっかりと握り締める帝人に門田の心臓が急に跳ねた。

「いや…」

自分の心臓の妙な動きを意識的に無視して、門田は言葉を紡ぐ。

「大丈夫か?やけに寒そうだけど」

「あ…はい大丈夫です。ココアも温かいです」

ほわほわとした笑顔を浮かべる帝人だったが、背中を丸め、首を縮める姿はどこからどう見ても寒そうだ。
実際、強烈な寒さは小さな缶の温もりもどんどん奪っていて、寒さに強くない帝人にとってかなり辛い環境だった。

「無理すんなって」

門田は自分の巻いていたマフラーを肩にかけ、もっと傍に寄るように腕を引く。

「近くに居ればまだマシだろ。ほら、おしくらまんじゅうみたいに」

引かれた腕に帝人は抵抗しなかった。寒さはもう限界に近づいていて、少しでも暖かいなら何でもいい。そう思い始めていた帝人にとって、門田の申し出は断る理由が無かった。

「すみません」

それでもマフラーを奪ってしまうのは流石に心が痛んだのか謝罪を口にする。

「いいから」

寄り添うように二人はびったりとくっ付き、はぐれた友人を待つ。
お互いの体温が交換されているのか、少し暖かい。

「門田さんってあったかいですね」

自然とそんな事を言い出す帝人に「竜ヶ峰も十分温かいな」と門田は返す。

何とも言えない空気が二人の間に流れ、また二人は寄り添ったまま無言になる。

ゴーン

ゴーン

ゴーン

「あ」

「やっと始まったか」

除夜の鐘が鳴り始め、二人は遠い境内の方を向く。

「そろそろ新年ですよね」

「いや。11時から突き始めだから後1時間後だろう」

やっとこの寒さから逃れられると嬉しそうな帝人は門田の無情な一言に顔をひきつらせた。

「後1時間…」

「まぁ突き終わったら戻ってくるだろ。それともどっか店でも入るか?」

「いえ。待ってます。門田さんは行っててください」

この寒さの報復を正臣にしてやる。と妙な方向の事を考え始めていた帝人は半ば意地になっていた。

「竜ヶ峰…」

少年らしい意地に苦笑しながらも、寒そうな帝人を放置してどこかにいけるほど門田は薄情な男ではなかった。
そもそも帝人の体調も心配だ

「そう意固地にならなくても」

無理にでも帝人を連れて行こうと手を握った瞬間、氷の様な冷たさに門田は目を見開いた。
手袋さえしていない帝人の手は全体的に色を失っている。

「竜ヶ峰…無茶苦茶冷たいじゃないか。こんなんで外に居るのはマズい」

「でも」

外で待つ事に謎の拘りを示す帝人。ギュッと手を握っていた門田は帝人の頬にも手を延ばした。
ひんやりと冷たい。

「無理して風邪引いたら意味がない」

どこかの店に行こう。
そう続けようとした門田だったが、温かい手に無意識に擦りよる帝人に言葉を失う。小動物的な可愛らしさというか何というか、守ってやりたくなるような何かに門田は衝動的に帝人の体を抱き寄せていた。

「こうしていれば少しはマシだろ」

「ええっ」

流石に抱きしめられた事に驚いた帝人だったが、確かに温かい。
自分が移動したくないと言い出したのがすべての始まりなのだから、と大人しく抱かれたままで居る事にした。

「手は俺のポケットにでも入れとけ」

恐る恐る手を差し込むとかじかんだ手には嬉しい温もりに包まれる。

「あったかいです」

「そうか」

なんとも照れる体勢だ。
けれど、一度知ってしまった温もりを手放すなんて帝人には出来なかったし、門田にも出来そうになかった。

除夜の鐘が鳴る中、二人は恋人みたいに抱き合い、暖を取る。


そんな馬鹿みたいな事をする二人の仲を引き裂くような声が響き渡る。

「あーっ帝人!!!おまっ何して!!?」

「三角関係キターー(・∀・)ーー!!!!」

「ま、正臣!!!?」

「狩沢…それに遊馬崎…」

少し身を離した二人は待ち人の名を呼ぶ。

「なんで門田さんとっ」

「そんなの分かりきってるじゃない!!!!二人は世間の目を反らしながら愛を育む関係なのよ!!!!なんて美味しい!!!!」

「いや〜まさか抱き合うなんて思ってもいなかったす」

「私もよードタチンったらやるわねー」

「いや…違…」

門田が否定するものの未だ抱き合ったままでは説得力が殆どない。

「そ…そんなっ帝人…俺が必死にお前を探してる間に…」

「正臣…」

悪乗りを始める正臣をジト目で睨んだ帝人だったが、ボスンと門田の体に強く抱きついた。

「だって門田さんとくっついてると温かいし、正臣が勝手に先行っちゃったんじゃない」

「小悪魔っす!!!竜ヶ峰君は小悪魔キャラだったっすよ!!!!!」

「み、みかプー恐ろしい子!!!!」

遊馬崎と狩沢が騒ぐ中、門田は心の中で小さく溜息を吐いていた。
しばらくはこれをネタにからかわれるに違いない。

けれど、それもまぁいいか。と思っているのも確かで、門田は帝人から与えられる体温を甘受していた。


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あまり設定を生かしきれなかった感が物凄くします(笑)

[2011/1/9.Up]

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あきゅろす。
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