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企画
君は胸焼けするほど甘いお菓子(静帝)
これは一体どういう状況なんだろう

『俺の家に来い』

そんなメールを貰って家まで来た帝人はむせかえる様な甘い匂いにクラクラしていた。
家に上がるなり「そこで待ってろ」と言われ、大人しくリビングの片隅でテレビを見てはいるものの後ろが気になってテレビの内容なんて頭の中に全然入ってこない。


ガチャンだとか。ドサだとか。グキャだとか。
あんまりキッチンでは聞かない音の交響曲を奏でるのはバーテン服にエプロンを付けたこの家の家主。

(静雄さんって料理とかするのかなぁ
そういえばバーテン服とか着てるし、料理とかできそう)

なんて思いながら、恐る恐る横目でキッチンを見れば

「うん、ありえないよね」

キッチンは想像通りに戦場みたいに荒れていた。



♂♀




前日、池袋某所

『そう言えば、聞いてもいいか』

「あ?」

たまたま出会ったセルティにPDAを突き付けられた静雄はハンバーガーをもふもふと食べながら先を促す。

『明日の何をするんだ』

「?」

んがっとバーガーに噛みつこうとしたままで不思議そうな顔をする静雄にセルティはコテンとヘルメットを傾げた。

『何もしないのか?』

「何の話だ」

僅かに苛ついた声で訊ね返され、やっとセルティは互いの知り得る情報が同じではない事を悟った。

『いや、すまん。知らないとは思わなかったんだ』

「だから何の話だよ」

『明日、帝人の誕生日だぞ』

「なんでアイツ何にも言わねぇんだ!!!!!」

哀れバーガーは一瞬にして粉砕されてしまった。ケチャップがシャツに飛び跳ねたのを気にする事なく静雄はブツブツと不満を口にしている。

『お、落ちつけ』

まずい事を言っちゃったかなーと内心反省しながら、静雄を宥めようとするものの、青筋の立った彼を止めるなんて事、彼女には不可能で。

けれど

「自分から言い出せねぇ帝人の気持ちに気付かないなんて俺はなんてダメな奴なんだ!!!」

静雄の怒りの方向は普段とは違っていた。

『あー…うん。そうだな。帝人が絡むと"そう"だったな』

セルティは肩を竦め、やれやれとヘルメットを左右に振る。
そんな呆れかえった彼女の様子に気づきもしない静雄は明日の計画を立てるのに全神経を集中させていた。



♂♀



そんなやりとりが昨日あったなんて知りもしない帝人はキッチンで格闘する静雄を不思議そうに見ていた。

(まさか、ね…)

自分の誕生日だと知っている訳がない。けれど偶然にもケーキと思しきものを作っている恋人の後ろ姿を見ていると期待してしまうのも致し方ない。
わざわざ祝って貰うものでもない。そう思って何も言わずにいたのだが、いざ当日になると期待してしまう自分のダメさ加減に帝人は心の中でため息を吐く。

「バカみたい」

ポツリと呟き、帝人は膝を抱えていた。







帝人の葛藤に気づきもせずに静雄は生クリームと格闘していた。

「なんで、硬ぇんだよ」

かき混ぜればすぐにホイップ☆
とかパッケージに書いてあったというのにかき回せばかき回す程に硬くなる生クリーム。


そして…

ガコッ

ボールの底に穴が開く。

力任せな泡立てにアルミ製のボールはなす術無く破壊されてしまった。
破壊されたボールはキッチンの床に転がり、無駄に終わった生クリームが床やら壁やらをベッタベタに汚している。
その数は10を下らない。

(帝人が待っているってのに…)


『私は新羅の誕生日にケーキを作った』

昨日セルティから聞き出した誕生日の祝い方。それを実践しようと慌てて材料と道具を買い集め、徹夜でケーキ作りをしているのだが、一向に完成の目途が立たない。

チラリとリビングに居る帝人を見れば、退屈そうにTVを観ている。

計画では、家に来た帝人にケーキを見せて「おめでとう」と言うつもりだったのだが…
かれこれ三時間は放置だ。

「なんでこうなんだよ」

イライラしながら生クリームを手に取り、新しいボールにぶちまける。
液体のソレがボールの三分の一を満たし、静雄はその中に泡立て器を入れた。

「今度こそ」

気合いを入れ直し、泡立て器を"力強く"回し始めれば

ボギッ

泡立て器が折れた。

「……………チッ。軟弱な野郎め」

完全に八つ当たりを呟いて、次の泡立て器を手にしたのだが、

「静雄さん…」

「うぉぅっ」

キッチンにやってきた帝人に声を掛けられ、ものの見事にボールを取り落とした。

「あぁっ!!!!ごめんなさい!!!!」

生クリームまみれになった静雄の足下と、青筋の立った顔とをオロオロと見る帝人。

「何だ」

非常に格好悪い所をマジマジと見られた静雄は少しでも虚勢を張ろうとぶっきらぼうな声をあげてしまう。
そんな静雄の機嫌の悪そうな様子に眉を八の字にさせた帝人は俯く。

「いきなり声かけちゃってゴメンナサイ」

「別に…構わねぇ」

「あの…何か困ってるみたいですし…」

キッチンの惨状を見回しながら帝人は怖ず怖ずと提案した。

「僕もケーキ作り手伝います」

「あ…」

バレていた。
端から見れば当たり前の事だが、静雄にとっては予想外の事。
くわえた煙草がポロリと床に落ちる。

「いや…これはだな」

帝人の視界から生クリームやらイチゴやらを隠そうとするもののキッチンがベタベタ状態では何の甲斐もない。

その上
「…静雄さん」
帝人は静雄が隠そうとしていた最大のもの。オーブンを指差す。

「スポンジ焦げてます」

「う…」

誤魔化しも申し開きも何もできない現状に静雄は無駄な抵抗を諦めた。
帝人の手の中に状況証拠が全て揃っている以上、本来口下手な彼が言い逃れをできる訳もない。

「悪い…」

かなり落ち込みながら静雄は帝人に頭を下げる。

「お前の誕生日にケーキでも作ってやろうと思ったんだけどよぉ」

「静雄さん…」

「全然うまくできねぇんだよ」

顔を上げた静雄の情けない笑顔とは正反対に帝人は嬉しそうな顔をする。

「そういう風に思ってくれるだけで嬉しいです」

満面の笑みを浮かべる帝人はキッチンの上に転がる半壊したボールの中の硬くてボソボソした生クリームを指で掬い、ペロリと舐める。

「美味しいです」

ニッコリと笑う帝人に静雄もぎこちない笑みを浮かべ

「嘘言うなよ」

「嘘なんか言ってません!!!」

靴下が汚れるのも構わずに帝人は静雄の側に歩み寄り、彼の肩に手を置く。

「帝人?」

肩に置いた手に力を入れ、精一杯の背伸びをした帝人はペロリと静雄の頬に飛んだ生クリームを舐めあげた。

「っ!!!!」

突然の急襲に顔を真っ赤にした静雄。

「だって、こんなに優しい味がするんですよ」

静雄と同じ様に顔を赤くした帝人は自分のしでかした恥ずかしすぎる行動に涙目になっている。

「帝人…」

「はい」

「すまねぇ」

もう一度謝罪を口にした静雄は吸い寄せられる様に帝人に唇を落とした。
触れるだけの可愛らしいキス。
それは夢の様な甘さで、静雄をクラクラさせるには充分な威力があった。

「ケーキ。作ってやる余裕なくなっちまった」

唇を離した静雄が二回目の謝罪の真意を伝えれば、帝人は幸せそのものといった笑顔で静雄に抱き付く。

「ケーキより、もっと甘いもの下さい」

「…分かった」


生クリームまみれのキッチンの上に帝人を座らせた静雄は今度は深い深いキスを帝人に送った。


――――――――――――――――
静帝でございます
誕生日で吐くほど甘い話を…という事で…
こんなんなりました
物理的に甘そうになったのは何故でしょう……
危うくエrになりかけたのは秘密です

生クリームを泡立てすぎるとボソボソの硬いダマになるよ☆って話でしたー(笑)

こちら、
素敵企画の帝誕計画!様への提出文となっております
参加させていただきありがとうございました

アンケのコメにあった
ほのぼの
ヘタレに救い
プレゼント(ケーキ)渡そうとする
ケーキプレイ
は網羅できたかと(笑)

"よしなに"設定と戦争は入れられなくてスミマセンm(_ _)m



そして「誕生日おめでとう」と言わせそびれたので
オマケをば(会話文)
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓


「静雄さん」

「何だ」

「…誕生日おめでとうって言って下さい」

「う………」

「言ってくれないんですか?」

「いや…そのだな…なんつーか」

「…………」

「今更言うのが照れ臭いっつーか」

「………………」

「その目はなんだよ」

「腰が痛いなって思っただけです」

「それは悪かった。お前があんまり可愛いもんだから、つい…」

「…………………………」

「た」

「た?」

「誕生日…おめでとう」

「ありがとうございます!!!!」

「照れくさい…」

「そう言う静雄さんが可愛いです」

「うるせぇ」

「静雄さん」

「何だよ」

「大好きです」

「っ!!!!!!……………………俺もだ」




[2010/3/21 Up]

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